劇場併設のコワーキングスペース、京都に
はたらく コラボアースE9

昨夏、京都駅から徒歩10分ほどの鴨川沿いにオープンした「コラボアースE9」は異業種の協業促進をうたうコワーキングスペースだ。現在、160人の会員を抱える。劇場併設という珍しい特色を生かし、演劇やアートを通じて会員間のコミュニケーションを充実させる。
2月上旬、併設劇場「シアターE9京都」で会員から募った13人が出演する演劇が上演された。それぞれが自身の「心の闇」について語っていくドキュメンタリー的な構成。舞台経験ゼロとは思えない堂々たる芝居に満員の客席から大きな拍手が巻き起こった。
数カ月にわたる稽古は「他の出演者との共同作業の中で自分と向き合い、客観視し、言語化する作業だった」と片付けコンサルタントの白川書子。「自営業は自分がどう見られるかが業績に直結する。相手に自分を信頼してもらうためのヒントをもらえた」と振り返る。

「コラボアースE9」を訪れるとパソコンに向かう人たちと同じくらい、雑談をしたりマッサージを受けたりする姿が目立つ。会員が「仕事が進まない」と口をそろえるほどだが、それでもオフィスに通うのは「1人で集中する時間より、人と話している時間のほうが生産性は高いし、協業が生まれやすい」(運営会社の高坂尚平社長)という考えを彼らが共有しているからだ。
会員の肩書はコンサルタントやデザイナー、医師、セミナー講師などと多様でフリーランスも多い。起業や独立に踏み切った面々だけに「やりたいことは明確。ただ、日々の売り上げなどに左右され、その核がぶれてしまうこともある」(高坂社長)。
その点、演劇やアートに従事する人たちは「自身の表現を追求することに誠実でぶれない」(同)。ビジネスにもそうした感覚を取り入れ、同じオフィスで日々言葉を交わし合うことで新たな視点を獲得できる。演劇上演のほか写真展なども開催する。
会員にも美術作家や劇団主宰などアートを仕事とする人は多い。冒頭の演劇を演出した演出家、あごうさとしは併設劇場の芸術監督を務め、日常的にオフィスに顔を出す。異なる視点を持つ人たちが交ざり合うことでコミュニケーションを活性化し、協業を促す環境づくりに一役買っている。
(佐藤洋輔)

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