是枝裕和監督「人間に正義も悪魔もいない」
ベルリン映画祭でインタビュー

2020/2/28 7:07
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【ベルリン=石川潤】世界三大映画祭の一つ、第70回ベルリン国際映画祭に参加した是枝裕和監督が27日、日本経済新聞のインタビューに応じた。人間の機微を細かく描く是枝作品は、物事を単純に善悪に切り分けるポピュリズムへのアンチテーゼとも映る。是枝監督は「(人間に)100%正義もいなければ悪魔もいない」と語り、過度な単純化とは距離を置く姿勢を示した。

インタビューに応じる是枝裕和監督(ベルリンで、マーリス・マテス撮影)

――世界中でポピュリズムが広がっています。そんななか、是枝作品は物事の単純化にあらがっているように見えます。

「あらがおうとしているわけではないが、映画を作るときにどう人間を描くかと考えたら、グレーのグラデーションで描くことを意識している。真っ白と真っ黒はやめて、すべての人間がグレーのグラデーションのなかにいるという感覚です。100%正義もいなければ悪魔もいないところでどう世界地図を描くか」

――同調圧力への対抗とか、画一的な見方への反論も意識している?

「そんな簡単なメッセージだったらしゃべれば済むじゃないですか。苦労して映画を一本作るときにそんなことは考えない。ただ、もちろん今どういうふうに時代が流れているか、人間をどういうふうに捉え始めているか。ポピュリズムもそうかもしれないし、ネオナチ台頭もそうかもしれないけれど、そういう状況は認識しているから、認識しながら自分はどういう物語を作れるかということは意識しますよ」

「それへの反論をこのせりふに込めてやろうとか、そういうことをし始めたら楽しくないですよね。(カンヌ映画祭最高賞を受賞した)『万引き家族』だってそういう意図はなかったけれど、結果的に(犯罪を助長するなどの批判が一部で高まり)そういう(物事を単純化する)人の琴線に悪い意味で触れた。波風は立つ。立たないよりはいいじゃないですか」

――是枝監督にとって映画作りとは。

「人間って何だろうというのを考えていく延長線上に映画作りがあるということなんですよ。そのなかに家族って何だろう、血縁って何だろう、身内の人間が死ぬってどういうことだろうとか。そういう分からないことを考えるために撮るというのはドキュメンタリーの時と変わらない。より深く、もう少し深く考えてみたいという」

――「万引き家族」は、取材で訪問した施設で(絵本の)スイミーを読み上げてくれた女の子に向けて撮ったと語ったことがありますね。

「その子のために撮るというよりは、ものを作るってやはり誰かに語りかける行為だから、誰かって言うのが明快に浮かんだ方が言葉が選びやすいというのはある。子供に語りかける話と、母親に語りかける話は文体が変わってくるから。世界に(向けて)となると文体が選べなくなる」

――最新作、カトリーヌ・ドヌーヴさん主演の『真実』はだれに語りかけているのですか。

「これね、難しい質問ですね。誰かに語りかけているというよりは、正直に言うと、できあがって誰と一緒に見たいかと思ったのは(多くの是枝作品に出演して亡くなった)樹木希林さんですね。希林さんに向けてって言っちゃうと、そこだけ切り取られるとすごくいやーな感じがするから言いたくないんだけど、たぶん希林さんが見てあの映画についてはいろいろ言いたいだろうし、聞きたいだろうし、あの映画見ながら希林さんと話したら楽しいだろうなって」

――『真実』というタイトルですが、真実は見つかるのですか

「どうですかねえ、それは。真実だと思っていてもそうじゃないこともある。それが必ずしも、不誠実であってウソだというわけではないというようなことじゃないですか。あくまでグレーに、グレーに描いている」

――次は何を撮りたいですか。

「第2次世界大戦中の日本の話はやりたいというのはずっとありまして。もともと満州の、満映っていう撮影所の話をやりたいと思って企画を温めて、動かしているけど、これが実現しないね。難しいなあ。また形を変えて。でもその時代の映画人の話をやりたいというのは思っています。でも5年ぐらいかかるんじゃないかな」

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