柔道・井上オール1本の金 2000年シドニー五輪
五輪で39個の金メダルをもたらしてきた日本柔道界でも華やかさで白眉といえるのがシドニー男子100キロ級の井上康生だろう。前年の世界選手権を制し本命として上がった畳。決勝は2分9秒、代名詞の内股でニコラス・ギル(カナダ)を跳ね上げる。海外勢のマークも関係なし、駆け引きなしのオール一本で頂点に駆け上がった。

表彰台では前年に急死した母、かず子さんの遺影を抱いた。亡くなった当時、スランプに陥っていた井上は、母からの最後の手紙に記されていた「初心に戻って」を胸に刻み復活。母への感謝の念を表した22歳の若者の表情も涙を誘った。
その後も01年から全日本選手権を3連覇したが、五輪連覇を期待されたアテネ大会では準々決勝で敗戦。以降は大胸筋断裂の大けがを負い苦しんだ。08年の全日本選手権で内股をすかされて敗戦、北京五輪出場はかなわず、これが現役最後の試合となった。得意技で散った競技人生の締めくくりまで、すべてが絵になる不世出のスターだった。
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