ひとりでに時を刻む物質「時間結晶」
日経サイエンス

2020/2/29 2:00
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液体を冷やしていくと、原子が空間の中で自然に一定間隔で並び、結晶を作る。そしてアインシュタインの相対性理論によれば、空間と時間は同等とされている。ならば時間においても同じことが起きるのではないか。つまり、物質の性質が自然に一定の時間間隔で振動する「時間結晶」が存在するのではないだろうか──。ノーベル物理学賞を受賞した米国の物理学者、マサチューセッツ工科大学のフランク・ウィルチェック教授は、今から8年前の2012年、こんな大胆な予想を打ち出した。

時間結晶のイメージ。物質中に生じた微小な磁石の集団が、周期的に反転を繰り返す

時間結晶のイメージ。物質中に生じた微小な磁石の集団が、周期的に反転を繰り返す

この予想は物理学者たちの興味をかき立てた。もし本当ならば、自然界には「何もしなくても物質の性質がひとりでに振動し続ける」という、これまで想像もしていなかった状態が存在しそうだ。果たしてそんなものはあり得るか。実際に作ることは可能か。賛否両論が巻き起こり、あちこちで実験の検討が始まった。

だが2015年、当時カリフォルニア大学バークレー校の大学院生だった渡辺悠樹さん(現・東京大学准教授)と東京大学の押川正毅教授が出した1本の論文が、議論の流れを決定づけた。「時間結晶は存在しない」と題したその論文は、ウィルチェック教授が提唱した時間結晶が実現できないことを数学的に証明していた。

渡辺さんらの証明によって、何もせず放置していても物理的な性質がひとりでに振動し続ける「平衡状態」の時間結晶は否定された。ならば平衡状態ではない時間結晶はできないだろうか。ほどなく米国などの研究グループがそんな時間結晶の理論を提唱した。それは周期的に変化する力を加えたときに物体の性質がその何倍かの周期でゆったりと振動するという、新しいタイプの時間結晶だった。

新たな時間結晶には意外な特徴があった。物体を揺する周期的な力の強さを変えても、物体の性質の周期は容易に追随しないという「頑固さ」があるのだ。米ハーバード大学と筑波大学などの共同研究チームは、ダイヤモンドの中に微小な磁石を多数作り込んだ材料を使った実験で、このことを確かめた。米メリーランド大学も空中に1列に浮かせたイオンを用いて、同じ現象を確認した。

こうした頑固さは時間結晶が生じるメカニズムと関係しているらしい。液体は原子がどこでも同じように動き回っており、結晶は原子がいる場所といない場所が交互に現れる。物理では前者を「対称性が高い」状態、後者を「対称性が低い」状態と呼ぶ。結晶は、液体の高い対称性が自然に減少し(これを「対称性の自発的破れ」と呼ぶ)、低い対称性に移ったものだ。

「対称性の自発的破れによって生じる秩序は、一般に『硬い』」と渡辺准教授は話す。対称性の高い液体は柔軟に形を変えるが、対称性の低い結晶は押しても簡単に変形しない。時間方向の結晶でも同じように周期が「硬く」なるという。

対称性の自発的破れは、かつて南部陽一郎博士が提唱したもので、その業績によってノーベル物理学賞を受賞した。時間結晶の発見は、物理学の重要なメカニズムである対称性の自発的破れの理解に新たな光を当てている。

(日経サイエンス編集部 古田彩)

(詳細は2月25日発売の日経サイエンス2020年4月号に掲載)

日経サイエンス2020年4月号(特集:時間結晶/チバニアン)

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,466円 (税込み)

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