古井由吉さんが死去 濃密な文体、「杳子」で芥川賞
濃密な文体で人間の狂気や生死を見つめた「内向の世代」の作家、古井由吉(ふるい・よしきち)さんが2月18日午後8時25分、肝細胞がんのため東京都内の自宅で死去した。82歳。告別式は近親者で行った。喪主は妻、睿子(えいこ)さん。

東京大独文科卒業後、ブロッホなどドイツ文学の翻訳を手掛け、大学でドイツ語を教えた後、30代で作家専業に。山の中で出会った青年と病んだ女子大生の恋愛を幻想的に描いた「杳子」で1971年に芥川賞を受けた。
日常の深部を掘り下げる筆致は「魔術的」とも評され、読者だけでなく多くの書き手からも高く評価された。作家の黒井千次さん、小川国夫さんらとともに「内向の世代」と呼ばれ、後に芥川賞選考委員を務めるなど、現代日本文学の中心的役割を担った。
主な作品に、中年の男と複数の女性の交情を描いた「槿(あさがお)」(谷崎潤一郎賞)のほか、「仮往生伝試文」(読売文学賞)、「白髪の唄」(毎日芸術賞)などがある。晩年は老いを見詰める作品やエッセーを多く手掛けた。
酒場で作家らを集めて定期的に朗読会を開催。競馬好きとしても知られた。〔共同〕