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睡眠革命「スリープテック」 ベッドにセンサー搭載

出所:エンバーラボ
CBINSIGHTS
先端技術で睡眠の質を改善する「スリープテック」が注目されている。睡眠不足は事業活動の生産性低下につながるほか、病気のリスク要因になる可能性もあり、経済的にも睡眠の改善は大きな課題だ。人工知能(AI)やウエアラブル端末など最新のテクノロジーを活用したスリープテックの新潮流や提携の事例を紹介する。

米調査会社ウェイクフィールド・リサーチによると、世界の成人の半数以上が睡眠不足に悩まされている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

睡眠不足は心臓病など様々な重病の主なリスク要因であり、社会に大きな経済的負担がかかると考えられている。米ランド研究所の2016年の研究によると、米国での睡眠不足による生産性損失は年間4110億ドルに上る。

もっとも、最近のテクノロジーの進化で睡眠障害の治療は向上している。様々な業界の企業がスリープテックを推進するために力を合わせている。

CBインサイツのデータによると、睡眠の分析や改善を目的とする業務提携は過去3年で60件以上に上った。今回のリポートでは、スリープテックの新たなトレンドや、この技術の未来の活用例を示している可能性がある一部の提携について取り上げる。

スリープテックの新たなトレンドを示す10の提携

1.スマートベッドメーカー、競争で優位に立つためにスリープテックに着目

出所:テンピュール・シーリー、フルパワーテクノロジーズ
マットレスメーカー:米テンピュール・シーリー・インターナショナル
スリープテック企業:米フルパワーテクノロジーズ

 マットレス大手のテンピュール・シーリーは米エイトスリープ(EightSleep)や米レスト(ReST)などスマートベッドの新興企業からの攻勢を受け、商品ラインアップを強化するためにスリープテック企業のフルパワーテクノロジーズと提携した。テンピュールとフルパワーは非接触の睡眠/いびきモニタリングセンサーを搭載し、マットの角度を調節できるスマートベッド「テンピュール・アーゴ・スマートベース」を開発した。フルパワーのAIプラットフォームが収集データに基づいてマットの角度を自動で調節し、いびきを軽減させる。さらに、スマートフォンのアプリで個人に応じたアドバイスを提供し、睡眠の質の向上を促す。
 フルパワーは他にも多くの企業と様々な用途で提携している。他のマットレスメーカー(米サータや米シモンズなど)やスマートホーム・アシスタント(米グーグル「ネスト」や米アマゾン・ドット・コム「アレクサ」など)、スマートウオッチメーカー(米アップルや米モバードなど)、医薬品企業(仏サノフィなど)はその一部だ。

2.スマートベッドを医学研究に活用

出所:スリープナンバー
スマートベッドメーカー:米スリープナンバー
医学研究機関:米メイヨー・クリニック
 スマートベッドメーカーのスリープナンバーはこのほど、メイヨー・クリニックと提携し、循環器内科などによる睡眠についての研究資金を提供することを明らかにした。提供額は1000万ドル。詳細は一部しか明らかになっていないが、この提携では「一晩で100億の生体データポイントを収集する」とうたうスリープナンバーの睡眠トラッキング技術が使われる。

3.睡眠データを公衆衛生モニタリングに活用

米フィットビット社のウエアラブルデバイス
公衆衛生機関:米スクリプス研究所
スリープテック企業:米フィットビット(現在は米アルファベット傘下)
 スクリプス研究所のトランスレーショナル研究部門は17年にフィットビットと提携し、米国立衛生研究所(NIH)の研究プログラム「オール・オブ・アス(AllOfUs)」の参加者1万人余りにフィットビットのウエアラブル端末を提供した。スクリプスの研究チームは既に数年にわたってフィットビットの端末からデータを収集しており、つい先日にはフィットビットの公衆衛生モニタリングへの活用についての研究結果を発表した。この研究ではフィットビット利用者4万7000人の匿名加工したデータを使い、インフルエンザに罹患(りかん)した場合の「異常な」心拍数と睡眠パターンに相関関係があることが明らかになった。このデータに基づいて推定することで、研究者によるインフルエンザの感染予測の精度は大幅に向上するだろう。

4.「コネクテッドヘルス」機器で睡眠呼吸障害を検知

出所:レスメド、ベリリー・ライフサイエンシズ
テクノロジー企業:米ベリリー・ライフサイエンシズ
メドテック(医療とテクノロジーの融合)企業:米レスメド(ResMed)
 医療機器で収集したデータを活用し、個人が自分の健康状態を管理できるようになる「コネクテッドヘルス」の分野では、睡眠呼吸障害が注目されつつある。睡眠呼吸障害の治療機器メーカー、レスメドの研究によると、これは世界各国で10億人近くに影響を及ぼしている非常に一般的な疾患だが、大半のケースは見過ごされ、治療を施されていない。睡眠呼吸障害を放置すると循環器系疾患や糖尿病、うつ病などの疾患のリスクが高まる。
 コネクテッドヘルス機器は呼吸や脈拍といったバイタルサイン、睡眠パターンなどの生体情報を受動的にモニタリングし、睡眠呼吸障害をより早い段階で簡単に検知できる。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校が17年の研究でアップルウオッチ利用者の睡眠呼吸障害を90%の精度で検知したのを機に、このアプローチの機運が高まった。
 それ以降、いくつかのテクノロジー企業やヘルスケア大手が独自の取り組みを進めている。フィットビットは睡眠呼吸障害を検知するアルゴリズムを開発し、現在は臨床試験を実施している。
 一方、レスメドとアルファベット傘下のベリリーのように、他社との提携を選んだ企業もある。
 レスメドとベリリーは18年7月、睡眠呼吸障害への対応に取り組む共同事業(ジョイントベンチャー)を立ち上げた。プレスリリースによると、この共同事業は「レスメドの睡眠呼吸障害での専門知識と、ベリリーの最先端の健康データ分析技術を活用して」睡眠呼吸障害の検知、診断、治療、管理に役立つソフトウエアを開発する。
 レスメドは非接触の睡眠モニター「S+」、ベリリーはウエアラブル型の生体情報モニター「スタディーウオッチ」などこの事業で使われる可能性があるコネクテッドヘルス機器を開発している。もっとも、これらの機器が使われるという確証はまだない。

5.睡眠を促す製品のテストにスリープテックを活用

出所:インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランシズ
製品メーカー:米インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランシズ、米サータ・シモンズ・ベッディング
スリープテック企業:米スリープスコア・ラボ

 レスメドが参加する合弁事業スリープスコア・ラボも、関連業界での製品開発にレスメドのスリープテックを使っている。
 スリープスコアは1月、インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランシズとサータ・シモンズ・ベッディングの睡眠促進製品のデータ収集に協力すると発表した。今回の協力により、消費者向けの睡眠関連製品の開発は主観的または自己申告による測定基準が使われることが多かった従来の研究開発モデルから大きく変わることになる。

6.研究者、睡眠の質を改善するためにマイクロバイオーム(様々な種類の細菌の集団)に注目

出所:バイオーム
マイクロバイオーム企業:米バイオーム(Viome)
研究機関:メイヨー・クリニック

 マイクロバイオームを分析して個人に応じた食品やサプリを勧めるバイオームはメイヨー・クリニックと提携し、慢性疾患でのマイクロバイオームの役割について研究している。まずは睡眠呼吸障害や肥満などの睡眠関連疾患について研究し、その後は肥満や代謝、睡眠などに関連する基準を共同で追跡し、栄養状態の改善に伴う反応を分析する。最終的には、疾病管理戦略として個人に応じた栄養効果をアドバイスすることを目標に掲げている。
 バイオームとメイヨーの提携が発表される直前に、マイクロバイオームの研究を手がけるスタートアップの米ホロバイオーム(Holobiome)と米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も同様の事業で協力する方針を明らかにした。これは睡眠関連の健康管理でマイクロバイオームの研究に対する関心が高まっていることを示している。

7.ウエアラブル端末、睡眠トラッキングを超えた機能を持つように

出所:エンバーラボ
ウエアラブル端末メーカー:米エンバーラボ(Embr Labs)
スリープテック企業:J&J

 ウエアラブル端末のスタートアップ、エンバーラボとメドテック大手J&Jの提携は、ウエアラブル端末の変化を示している。ウエアラブルは睡眠に関しては受動的なトラッカーとみられてきたが、今では睡眠を支援する機能が模索されている。
 エンバーラボはウエアラブル端末「パーソナル・サーモスタット(温度コントロール)」を開発した。利用者の体温調節を支援し、一定の治療効果の実現をめざす。同社はJ&Jと共同で、この端末で更年期の女性のほてりや睡眠障害を緩和できるかについて調べている。この研究によると、端末の利用者は入眠潜時(眠りに入るまでの所要時間)が28%短くなり、合計睡眠時間が増えた。

8.航空会社やホテル、旅行者にスリープテックを提供

出所:タイムシフター
航空会社:米ユナイテッド航空
スリープテック企業:米ヘッドスペース(Headspace)、米タイムシフター(Timeshifter)

 旅行業界はここ数年、スリープテックの分野で特に活発に動いている。航空会社やホテルは旅行者に睡眠を整えるサービスを売り込むため、瞑想(めいそう)アプリのスタートアップ、米カーム(Calm)やヘッドスペースと提携している。
 ユナイテッド航空はヘッドスペースと提携している航空会社の一つだ(米アメリカン航空はライバルのカームと提携している)。ユナイテッドは乗客が時差ボケにならないよう支援するアプリ「タイムシフター」も提供している。
 ホテルも睡眠関連コンテンツを提供するために、他社との提携に乗り出している。
 仏アコーグループが運営するノボテルは19年、カームとの提携を発表した。カームのアプリ「スリープ・ストーリー」や関連コンテンツを約60カ国・地域の500カ所以上のノボテルで提供する。
 一方、米ハイアット・ホテルズ・コーポレーションはヘッドスペースと組んでいる。ハイアットはまずはヘッドスペースの屋内向け健康コンテンツを提供し、年内に「会議向けコンテンツ」も導入する方針を明らかにしている。

9.アスリート、睡眠を活用して体力を回復

出所:スリープレート
スポーツチーム:マッカビ・テルアビブ(イスラエル)
スリープテック企業:スリープレート(Sleeprate、イスラエル)

 プロスポーツ業界もスリープテックを広く採用している。選手やトレーナー、コーチは睡眠を活用して体力回復を促したいと考えている。いくつかのチームがスリープテック分野のスタートアップと提携している。例えば、米プロバスケットボールNBAとサッカー米プロリーグMLSはヘッドスペース、米プロフットボールリーグNFLの選手会はストラップ型の活動量計を手がける米フープ(WHOOP)とそれぞれ提携している。一方、欧州の男子プロバスケットボール「ユーロリーグ」に所属するマッカビ・テルアビブとスリープレートの提携は、スポーツ選手が睡眠の質の改善に注目しつつあることを示している。
 マッカビは選手の心拍数と脳の活動を追跡し、個人に応じた睡眠指導プログラムを策定するスリープレートのソフトウエアを試験導入している。このプログラムにより移動に伴う疲労の緩和やケガの予防、身体機能の回復が促される。

10.企業、福利厚生として睡眠セラピーを提供

出所:デイズ
企業(雇用主):米スポーツ用品大手ニューバランス
スリープテック企業:デイズ(Dayzz、イスラエル)

 従業員への福利厚生としてデジタル睡眠セラピーの提供に乗り出す企業が増えている。各社はこれにより生産性が向上し、アブセンティーイズム(遅刻・早退や欠勤の増加など)が減り、事故など職業上のリスクが軽減され、睡眠不足に伴う医療費が抑制されると期待している。
 ニューバランスと睡眠アプリを手がけるデイズとの提携は最近の一例だ。一方、米ドラッグストアチェーン大手CVSヘルスは19年、フランチャイズ各社にデジタル睡眠セラピーを提供するため、米スタートアップのビッグヘルス(Big Health)と提携した。

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