がん免疫療法、効果判定早く 無駄な投薬抑制へ

2020/2/27 2:00
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がん免疫療法の一つ「免疫チェックポイント阻害剤」の治療効果を予測する研究が進む。末期がんでも進行を止めたりがんが消えたりすると期待されるが、半数以上の患者では効果がない。早い段階で治療効果が予測できれば、無駄な投薬を防げる。副作用だけでなく、医療費の抑制にもつながると期待されている。

免疫チェックポイント阻害剤は体内にある免疫の力を利用する抗がん剤の総称だ。がん細胞が免疫細胞にかけたブレーキを解除し、攻撃するスイッチを入れる仕組みで働く。様々な種類のがんで効果が報告されている。

2011年に承認された米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)の「ヤーボイ」が世界で初めて実用化した。国内では14年発売の小野薬品工業の「オプジーボ」が初めて。末期がん患者で進行が止まったり、がんが消えたりする効果が確認されて注目を集めた。

免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」

免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」

オプジーボは皮膚がんから始まり、肺がんや腎臓がん、リンパ腫、胃がんなどに適用を広げ、多くの患者に投与されている。18年には2つの治療薬の開発につながる研究を指揮した米テキサス大学のジェームズ・アリソンさんと京都大学特別教授の本庶佑さんにノーベル生理学・医学賞が授与された。

課題は治療効果のある患者が限られる点だ。オプジーボの場合、効果があるのは投与したうちの2~3割ともいわれる。本庶さんのもとで研究開発に取り組む京大特定准教授の茶本健司さんは「半数以上の患者で効果がなく、その理由は不明」と言う。

一般的な抗がん剤はコンピューター断層撮影装置(CT)などの画像診断をもとに、がんの縮小などから効果を判定する。通常、治療開始から約3カ月かかる。効果がなければこの間にがんが進行してしまう。

免疫チェックポイント阻害剤の場合、現状では手術などで取り出したがん組織をもとに、免疫細胞の働きを抑える働きをするたんぱく質「PD-L1」の量や遺伝子変異の蓄積量などを調べ、効果を予測している。ただ手術から時間がたつとがんの性質が変わる場合もあり、精度が低い。世界中で効果を判定する研究が進む。

茶本さんらはオプジーボの効果を判別できるまでの期間を従来の3分の1にする技術を開発し、1月に米科学誌の電子版に発表した。治療前後の免疫細胞の変化などに着目した。

肺がん患者約50人から採取した血液を詳しく解析したところ、がんを攻撃する免疫細胞の比率の高さといった4種類の指標が、治療効果を予測する目安になることを発見した。新手法で評価すると、治療開始から1カ月の時点で96%の精度で効果を予測できた。

茶本さんは「従来のがん細胞の特徴を調べる方法に比べて精度は十分に高い。だが、この手法では実用化は難しい」と話す。細胞の分析結果が施設や手技などの影響で大きく変わるためだ。

そこで安定して分析できる血中物質をもとに調べる方法を探した。腸内細菌や免疫細胞の代謝などに関わる4種類の物質を調べると、治療開始から1カ月の時点で8割以上の精度で効果を判定できた。企業と協力して実用化を目指すという。

血中の物質から簡単に評価できる方法を探る研究は盛んだ。東京慈恵会医科大学や東京医科大学の研究チームは、がん細胞から血液中に流れる「エクソソーム」という微粒子に注目する。約120人の肺がん患者で、微粒子の中などにある「マイクロRNA(リボ核酸)」の種類と量を解析した。数十種類のマイクロRNAの量から、オプジーボが効く人を99%の精度で識別できた。

今後は微粒子の表面にあるたんぱく質を染色し、その量や状態から治療効果を予測する手法を試す。手掛ける慈恵医大助教の藤田雄さんは「1種類のたんぱく質を調べるだけですむ。30分~1時間で検出でき、結果がすぐに分かる」という。2~3年後の臨床研究を目指す。

課題は多い。肺がん以外でも同じように判定できるかどうかはまだ分からない。効かないと判定された患者の治療法を探ることも必要だ。がんと免疫の関係は未知の部分が多い。だが解明が進めば効果を飛躍的に高められる可能性がある。(岩井淳哉、草塩拓郎)

■がん免疫療法
 人の体を守る免疫の力を使うがんの治療法。病気にかかったと勘違いさせて免疫の働きを促す発想は古く、19世紀末に米国で感染症の病原体を殺したうえで注射する治療が試みられた。その後も様々な研究がされてきた。
 従来は免疫の攻撃力を高めることを目指していた。これに対し、がん免疫薬はがんが免疫の攻撃を逃れる仕組みを外すという逆の発想で開発された。このほかにも、患者から取り出した免疫細胞にがんを発見するレーダーとなる遺伝子を組み込んで体内に戻す「CAR-T細胞療法」も注目されている。

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