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サッカーとVAR「技術は使っても乗っ取られるな」
エラリーIFABテクニカルダイレクターに聞く

2020/2/27 3:00
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今季から明治安田生命J1リーグに限り、導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。早速、第1節でハンドによるPK(湘南―浦和)を見極めるなど、その効力を発揮している。VARについて「ゴッドファーザー」と呼ばれ、国際サッカー評議会(IFAB)でテクニカルダイレクターを務めるデイビッド・エラリー氏に先般、話を聞く機会があった。

VARについて「ゴッドファーザー」と呼ばれるデイビッド・エラリー氏

VARについて「ゴッドファーザー」と呼ばれるデイビッド・エラリー氏

IFABはサッカーの競技規則を制定、改定できる唯一の組織。2016年にIFABがVARを試験的に導入するとなったとき、そのプロトコル(手順)を作成したのがエラリー氏だった。以来、国際サッカー連盟(FIFA)とともに、このシステムの発展と洗練に大きく関わっている。

――レフェリーの判定にお国ぶりが表れるように、VARの運営についても国(リーグ)によって、微妙な差異があるように思われます。エラリーさんはこの見方に同意されますか。

「同意する。サッカーは国や地域によって異なり、例えば日本やアルゼンチン、スペインのリーグを見ると、どれも少しずつ特徴が異なる。これは文化の違いがサッカーに反映されているからだ」

「イングランドのプレミアリーグでは激しく力強いサッカーが展開され、世界で高い人気を誇っている。同リーグでは1試合平均20回のFK(ファウル)が与えられているが、スペインリーグのそれはもっと多い。イングランドでどれだけ試合の流れが重要視されているかが分かる。プレミアリーグは、審判員が選手のコンタクトプレーを認め、試合を止めることが少ない。ファンもそういうイングランドの文化を好んでいるともいえる」

「国によってサッカー文化が異なるという事実は、必然的にVARにも影響する。VARの役割の一つは、その国のサッカーを変えないことだから。VARが介入したことで1試合に5回も6回もPKが与えられるといったことがあってはならない。こうした間違いを避けるためにも、VARを扱う者は正しい知識を身につけていなければならない。VARは現役のトップレフェリーか、少なくとも最近引退したトップレフェリーであることが必須だと思う理由でもある」

「我々、審判員の世界では、選手の犯したファウルが警告にも退場にもなり得るという意味で『オレンジカード』という言葉を使う。イングランドでは、オレンジカードに値するタックルが警告になり、イタリアでは退場になる。これが文化の違いであり、VARはそれぞれの国の文化をリスペクトし、変えないようにすることが大事だ」

湘南―浦和戦の後半、浦和・鈴木のプレーについてVAR検証する主審=共同

湘南―浦和戦の後半、浦和・鈴木のプレーについてVAR検証する主審=共同

――VARを導入したことにより、判定にテクノロジーの力を借りるという新しいドアが開きました。こうなると、もう後戻りはできないように思います。この先、10、20年という単位でサッカーの判定はどのように進化すると思いますか。

「10年前、人々は『サッカーにテクノロジーのための場所はない』と話していた。例えば、ミシェル・プラティニ(フランス代表の名選手で、後に欧州サッカー連盟会長を務め、FIFA理事でもあった)はテクノロジーの介入に反対していた」

「実際、ゴールラインテクノロジー(GLT)を除くと、サッカーはおそらく判定にテクノロジーを導入するのが最も遅かったメジャースポーツだろう」

「これまでにVARが示しているのは、テクノロジーをきちんとコントロールし、制限しながら使うと、その恩恵を受けるということ。特に判定が難しいケースにおいて」

5年以内にもオフサイドを自動判定

――あくまでも、最小の干渉で最大の利益を得ることが目的であり、新聞の大きな見出しになるような誤審を避けるためにあると。

「10年後、サッカーの判定がどうなるかを答えるのは困難だ。5年前に私が『3年以内にワールドカップの決勝で映像のリプレーがPKか否かを判定する』と予想していたら、誰もが私をクレイジーだと思っただろう」

「そんな今、私が何を言ってもクレイジーに聞こえるかもしれないが、トップレベルの試合で、5年以内にオフサイドの判定が(技術的には)自動的に下されるようになると思う。技術の力に磨きがかかれば、選手の動きを追跡しつつ、ほかの選手との動きを比較することもできるだろう」

「GPS(全地球測位システム)を活用して、ファウルがペナルティーエリア内であったか、外であったかを瞬時に判断できるようになるかもしれない」

「他にもある。私は科学の初心者だが、何かをたたくと、熱が生じるということは知っている。サッカーの試合で、選手に与えられた熱――コンタクトプレーのインパクト――を瞬時に測れたら、ファウルの強度が分かるかもしれない」

「あとはGLTを応用した技術。現在はゴールか否かを判断するために活用されているが、これをゴールキックやコーナーキックにも応用できるかもしれない。同じことはスローインにもいえる。肉眼で見てから判断するより、テクノロジーの介入によって素早く判断することができるかもしれない」

観客がビール片手に議論する余地も

――そういうことがすべて実現していくと、副審がいらなくなるような気がします。

「ただし、覚えておかなくてはならないことがある。それは、サッカーにおける多くの判定が、事実ではなく意見に基づいたものであるということを。そこに『測る対象』があったときのみ、テクノロジーの価値を見いだせる、ということを」

「サッカーにはテクノロジーを扱うだけの器がある。重要なのは、テクノロジーにサッカーというスポーツが乗っ取られないこと。試合の流れや感情、熱狂、議論、批判を失わないようにすること」

「サポーターがビールを飲みながら、あれはPKだった、そうじゃないよ、と議論する余地は残さなければならない。それすらも奪ってしまうと、サッカーは破壊されてしまうだろう」

「試合の公平性を保つために、サッカーをより良くするためにテクノロジーを使うわけであって、それが試合を変えるわけではない。VARを使って1、2センチの差でオフサイドと判定し、ゴールを取り消すのは少し違う。サッカーはそんな変化を欲していない」

(聞き手は武智幸徳)

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