彩の国シェイクスピア・シリーズ「ヘンリー八世」

アートレビュー
2020/2/27 2:00
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シェークスピアの全戯曲37作の上演を掲げて1998年に始まったシリーズ公演の第35弾。16世紀のイングランド王ヘンリー8世の治世で貴族や聖職者らが対立と浮沈を重ねるさまを描く。権力者に引き立てられる者と没落する者の鮮やかな対比が現代性を帯びて見えてくるのが面白い。

権謀術数にたけた枢機卿ウルジーは人望の厚いバッキンガム公爵を陥れ、無実の罪で刑死させる。王は王妃キャサリンの女官アンに心を奪われて離婚、キャサリンは失意のうちに命を落とす。ウルジーも悪だくみが露見して失脚。王妃となったアンは後にエリザベス1世となる子を産む。

シェークスピアの歴史劇には珍しく、他国との戦争も王座をめぐる血みどろの争いもない。安定した体制下で王に目をかけてもらおうと躍起になり、栄華への階段を上ったり下りたりする人々。それがかえって、いまも様々な社会や組織に容易に見いだせそうな群像劇だと思わせる。

絶対の権威を誇る王を阿部寛が堂々と演じ舞台の求心力に。ウルジーの吉田鋼太郎が謀略をめぐらす悪賢さと王の不興を買い一気に転落する哀れさを大きな落差で見せる。貴族たちに手ひどく痛めつけられる場面での滑稽さを感じさせるたたずまいがいい。

バッキンガム公爵の谷田歩が死を前に無念さを吐露するセリフに力があり、キャサリンの宮本裕子は枢機卿との対決に緊迫感をみなぎらせる。正負の感情が交錯するなかで王女の誕生を迎え、祝祭感に満ちる展開が晴れやかだ。

演出を蜷川幸雄から引き継いで3作目となる吉田の没落した人々に向ける視線の温かさが印象深い。松岡和子の新訳。2月27日まで、彩の国さいたま芸術劇場大ホール。

(編集委員 上原克也)

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