冷凍王子に聞く 冷凍食品のおいしい手間抜き調理術

冷凍食品といえば、共働き家庭の強い味方。今や、お弁当のおかずやチャーハン・おにぎりなどのごはんものだけでなく、パスタ、ラーメンなどの麺類、スイーツやフルーツに至るまで、ありとあらゆる商品がそろっています。忙しい共働きママ、パパにとってはとてもありがたい冷凍食品ですが、それだけが食卓に並ぶと、味気なく感じることも。
もっと冷凍食品を上手に使いこなして、手を抜きながらも毎日の食生活を充実させたいというママやパパはどうしたらいいのか。「冷凍王子」としてテレビや雑誌などで大活躍の冷凍生活アドバイザー・西川剛史さんに、冷凍食品の上手な活用法やイチオシの冷凍食品について教えてもらいました。
「冷凍食品は栄養価が低い」というのは思い込み
冷凍食品といえば、「安くて便利」というイメージを多くの人が持っていることでしょう。その一方、「栄養価という点で子どもに食べさせすぎるのは心配」と思っていませんか? 実はそれ、大きな誤解のようです。「冷凍王子」として冷凍食品の開発も手掛けてきた西川剛史さんは、「冷凍食品は旬の食材を使って凍らせているので、栄養価は高い」と話します。
「例えば野菜は、旬の時期とそうでない時期に収穫したものとでは栄養価に差がありますが、冷凍野菜は旬の時期に収穫された最も栄養価が高いものが使われています。収穫後は、『ブランチング』という湯通し処理をしてから急速に凍結させ、マイナス18℃以下で保管されます。ブランチングをするのは、常温や冷蔵で保管していると、野菜自身が持っている酵素が働いて、味や食感などが劣化していくのを防ぐため。このような一連の過程を経ることで、冷凍野菜は収穫したてに近い栄養価や味の鮮度を保てているのです」
ただし、冷凍食品の保存状態には注意すべきだと西川さんは続けます。
「ご家庭では冷凍庫を頻繁に開け閉めするため、冷気が漏れ出て庫内の温度が上がり、マイナス18℃以下の状態が保てなくなることがあります。冷凍庫を開けるときはできるだけ短い時間にとどめる、開けっぱなしにしないようにするなど、普段から保存に気をつけておけば、鮮度や栄養価が落ちることを防げると思います」
西川さんは「冷凍食品には大きく3つのメリットがある」と強調します。
「まず1つ目は、言うまでもなく手間がはぶける便利な食品であること。もともとが、調理を簡単にするという目的で開発されたものなので、温めるだけですぐに食べられるという共働き家庭にとっては最高の利点があります。
2つ目はそのおいしさです。以前は、冷凍食品は手料理より味が落ちると思われていたかもしれませんが、最近は『○○シェフ監修』など、プロの味を再現した商品が増えています。正直、料理上手でない人が手間をかけて作るよりも、おいしいものが多いと思います。
3つ目は、健康で豊かな食事を実現できること。先ほどお伝えしたように栄養価が高いのですが、メニューも実に多彩です。レトルトやインスタントラーメン、缶詰などすぐに食べられる便利な食品はいろいろありますが、加工できる食材はどうしても限られます。でも冷凍食品は野菜などの素材ものから揚げ物などのおかず、麺類やごはんものなど、品数は実に豊富。それらを上手に組み合わせることで、栄養バランスの整った食生活を送ることができるのです」
最も大事なことは「正しい冷凍環境での保存」
しかし、冷凍食品といえば、もう一つ気になるのは「味の濃さ」です。子どものうちから味の濃い食事に慣れてしまうと、塩分の取りすぎになって、将来生活習慣病につながるのではと心配する人も少なくないでしょう。しかし、西川さんは「以前は味が濃いものが多かったけれど、最近は薄味のものが増えてきました」と話します。

「冷凍食品はもともと、弁当用としての需要が多かったので、ごはんに合うおかずとして、味が濃いものが多い傾向がありました。しかし、最近は減塩のものや、素材の味を生かしたシンプルなものも増えてきています。心配な方は、商品裏面の原材料を確認し、なるべく素材がシンプルな、あれこれ入り過ぎていないものを選ぶといいでしょう。保存料を心配される方もいるようですが、マイナス18度以下という環境では雑菌が繁殖したり腐敗が進んだりすることはないため、基本的に使われていません。安心してお子さんに食べさせてもらって大丈夫です」
こうしてみると、市販の冷凍食品はいいことずくめに思えますが、その前提になっているのは冒頭でも説明した「きちんと冷凍保存されていること」です。管理がずさんだとせっかくの味も栄養価も落ちてしまうのです。
「冷凍食品は、購入後もその冷凍状態を保つことが最大のポイントです。まずは買ってから自宅に持ち帰るまで、なるべく早く持ち帰るようにしてください。かごに入れるのは買い物の最後にして、保冷剤を入れた保冷バッグで持ち帰るのがベスト。保管後も、冷凍庫の中をできるだけマイナス18℃以下を保つように心掛けましょう。そのためにも、冷凍庫の中をきちんと整理しておくことが大切です」
管理の仕方は、どの食材も同じで、種類によって変わることはありません。ただし、あまり長く保管すると味や栄養価が下がるため、おいしく食べるには購入後1カ月以内に使うのがおすすめだそうです。
イチオシの冷凍食材は「ブロッコリー」
冷凍食品というと、チャーハンやおにぎり、パスタなどの主食として使う方が多いのではないでしょうか。しかし、「冷凍食品こそ、魚や野菜などの素材ものを上手に使ってほしい」と西川さんは勧めます。
「魚も野菜と同じように、旬の時期にとったり、収穫したりしたものを急速冷凍しているので、1年中、旬と同じおいしさ、同じ栄養価のものが食べられます。それらを上手に活用すると、メニュー全体の栄養アップにもつながりますし、より彩り豊かで楽しい食卓になると思います。冷凍食品は加工が気になるという人も、素材ものから活用してみるといいのではないでしょうか」
西川さんおすすめの冷凍食材はブロッコリー。味がよく、栄養価も高いそうです。
「解凍したらベチャベチャになってしまっておいしくなかったという失敗談も聞きますが、それは解凍時間が長すぎるから。ブロッコリーの場合、沸騰したお湯に数秒間入れて引き上げるか、ラップに包んで電子レンジで軽く加熱し、まだ冷たいかなというくらいのタイミングで取り出してください。どちらの場合も、あとは予熱で十分です」
ブロッコリー以外には、「栄養価が高く、解凍してすぐに食べられる枝豆や、冷凍することで青臭さが抑えられる小松菜なども使いやすい」と、西川さんは続けます。
「枝豆は、おつまみとしてそのまま食べることもできますし、サラダやあえ物、いためもの、揚げ物などに入れ込んでもいい。小松菜は市販の冷凍食品にもありますが、家庭でも簡単に冷凍できるので、時間のあるときにでもトライしてみてください。洗ったら、生のままざく切りにして、ジッパー付き(冷凍)保存袋に入れて冷凍するだけなので、簡単です」
野菜に適した解凍方法は、できるだけ高温で短時間加熱する「加熱解凍」と、調味料を使って解凍する「下味解凍」がありますが、小松菜の場合は下味解凍がおすすめなのだとか。
「小松菜が入ったジッパー付き(冷凍)保存袋に、めんつゆをたっぷり入れて漬け込み、常温で解凍するだけです。そのままおひたしにしたり、スープやいためものにしたりと、幅広く使えるので重宝しますよ」
「冷凍食品は便利で助かるけれど、そのまま食卓に出すのは気が引ける」というママやパパも多いかもしれません。しかし、西川さんは「冷凍食品を使うのは手抜きではなく、『手間抜き』」と強調します。
「会社の仕事は『効率良くやれ!』と言われるのに、家事になると、急に『手間ひまをかけなさい』と言われるのはおかしくないですか? 冷凍食品を活用するのは余計な手間を省略して『効率的な調理』をしているだけ。食事の質は決して落ちません。共働きで忙しいママやパパは、堂々と使ってほしいと思いますし、その空いた時間やエネルギーをお子さんとの時間に使ってあげてほしいと思います」
西川さんおすすめの「冷凍食品3選」
最後に、西川さんおすすめの市販の冷凍食品ベスト3を伺いました。

西川さんがおすすめしているブロッコリー。中でもこの「オーガニック ブロッコリー」は、「自然解凍OK」の食品。「お皿などに平らにのせて常温で解凍でき、手間がかかりません。衛生管理もしっかりされているので、お子さんにも安心して食べさせられます」(西川さん)。

キンレイの温めるだけで食べられる「お水がいらないシリーズ」の一つ。長崎ちゃんぽん発祥の中華店「四海樓(しかいろう)」監修の商品です。「麺と具材、スープがひと固まりになっているので、そのままなべに入れて火にかけるだけで作れるお手軽商品。鶏ガラだしと豚骨だしをブレンドした白湯スープは、まろやかで深みのある味わいです。具だくさんで野菜がたっぷり入っているので、野菜嫌いのお子さんでも食べやすいと思います」(西川さん)。

宮崎の焼き鳥名店「恵屋」が作る冷凍焼き鳥です。鶏皮、ぼんじり、つくね、ももの4本が、串打ちされてトレーに入っています。「恵屋は全国でも有数の鶏肉の生産地である宮崎県で長年愛され続けてきた名店。焼き鳥にうるさい宮崎人も認める、宮崎の味です。焼く前にタレをしっかり漬け込むことで、しっとりジューシーに仕上がっています。冷凍食品専用ショップのマスコで購入できます」(西川さん)
この3つを使えば、ごはん作りもあっという間。ブロッコリーを自然解凍している間に、焼き鳥をおつまみにちょっと1杯。頃合いを見計らってちゃんぽんを作り、ブロッコリーに好みの調味料をかけたら、1食完成です。忙しい日のごはん作りも、市販の冷凍食品を活用すれば、時間にも気持ちにも余裕ができますね。

(取材・文 荒木晶子、撮影 岩澤修平)
[日経DUAL 2019年10月4日付の掲載記事を基に再構成]
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