国立大学の授業料、自由化すべきか 財源確保へ議論
文科省 学生負担は増加

文部科学省は、法定の上限額がある国立大の授業料を各大学が独自に決める自由化の是非について検討を始めた。実現すれば、教員の獲得や研究費に充てる財源を確保するため、各大学が授業料を自由に引き上げることが可能になる。ただ授業料の引き上げが進めば、家庭の経済状況によって大学に進学しづらくなる学生が増える恐れがあり、慎重に議論する考えだ。
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国立大授業料の自由化は、2019年6月に政府が閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)が検討項目に掲げた。文科省は授業料自由化など国立大の改革案を議論するため、大学や経済界の関係者らでつくる検討会議を設置し、21日に初会合を開いた。20年中に結論を取りまとめる予定だ。
国立大の授業料は省令で標準額(年53万5800円)が定められ、引き上げは2割が上限となっている。私立大や公立大にこうした規制はなく、学校法人や自治体の判断で授業料を設定できる。
これまで国立大は授業料の横並びを続けてきたが、東京工業大が初めて、19年度の入学生から2割弱値上げすると表明。東京芸術大など4校も続いた。各校は増収分を外国人教員の獲得など国際化への対応に充てる。授業料自由化が実現すれば、こうした動きが加速する可能性がある。

議論が加速する背景には、国立大が置かれている厳しい経営環境がある。国立大運営の財源の多くを占める国からの運営費交付金は、財政難などを理由に減少傾向だ。
各大学は教員の人件費や研究費用に充てるため、企業との共同研究による収入のような外部資金の獲得を迫られている。
ただ授業料が上がれば学生の負担は増す。20年度から大学授業料などの無償化制度が始まるが、対象は年収380万円未満の世帯までで、うち全額免除は住民税非課税世帯(年収270万円未満)までだ。
金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)は「国立大の教育や研究は国が一定の責任を持って補助金を出し、授業料も比較的低くして教育の機会均等に配慮してきた。授業料を自由化するなら補助金を出す根拠も薄れる。国と国立大の関係がどうあるべきかも含めて議論すべきだ」と話す。
21日の初会合では、東北大学長の大野英男委員が大学の国際化を進めるため、留学生の授業料や定員の自由化を訴えた。大学の競争力を強化する案についても議論。東京大学長の五神真委員は迅速、大規模な資金調達のために「大学債」の発行の規制緩和を主張。現在は付属病院の設置など償還のための収入が見込める事業の土地、設備を購入するためであれば債券を発行できるが、この規制を緩める案を出した。
検討会議の委員は他に上山隆大・総合科学技術・イノベーション会議議員、小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長らが務めている。
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