デジタル時代に損害保険会社に期待される役割は?
読者の提案 原典之・三井住友海上火災保険社長編
原社長の提示した「デジタル時代に損害保険会社に期待される役割は?」という課題に対し、多数の投稿をいただきました。紙面掲載分を含めて、当コーナーでその一部を紹介します。

■商品選びはお任せ
石沢 雄大(会社員 33歳)
「損害保険」といっても自動車保険や火災保険、傷害保険など様々で、生命保険まで含めると一体どれほどの保険があるのだろうか。
その中で自分がどの保険に入ればいいのか、どのくらいの補償が妥当なのか判断するのはとても困難だ。いっそのこと誰かにすべて任せてしまいたいという気持ちに駆られる。
デジタル技術を活用することで、保険会社に「すべてお任せ」できないか。私たちが持っているスマートフォンやタブレット端末は、今や私たちの分身であり、最近では自動車や家電ともつなぐことができる。そこから得られるデータを分析することで、その人のライフスタイルや食生活、健康状態や自動車の運転特性、趣味など様々な情報を把握し、そのデータを基に保険会社に最適な保険商品や補償内容を提案してもらいたい。私たちはデータさえ提供しておけば、黙っていても保険コンシェルジュが最適な保険を提案してくれるというわけだ。
■貴重なデータ守る
冨和 大輔(目白大学社会学部3年、21歳)
パソコンやスマートフォンは今や生活の一部だ。多くの人が、様々なデータを保存しているだろう。仕事の書類、家族との思い出……。そうした便利なところがある半面、破損や紛失によって取り返しのつかないことになるリスクもつきまとう。私は、大学のマッキントッシュで作ったエントリーシートのデータをUSBに入れ、自宅のウィンドウズで開いて壊した経験がある。
こうした事態に備えた「データ保険」がほしい。データ量に応じた月額料金を支払い、大切なワードやエクセルのファイル、撮影した動画や写真のデータが補償されるというものだ。データがハッカーに盗まれたら、簡単な手続きで賠償金を受け取れる。データが壊れたらコピーデータが提供される。
保険の役割は日常生活に安心を提供することだと考える。デジタル時代はパソコン・スマホが生活に寄り添っており、データを補償する保険が求められるのではないか。
■介護者負担減らす
中里夏美(目白大学社会学部3年、21歳)
介護をされる側だけではなく、介護をする側の保険があればと考える。少子高齢化で、将来介護を必要とする人が増える一方、介護を担える人の減少が予想される。今でも介護疲れによる事件やうつ病にかかった人のニュースを見かける。そんな状況に対応した保険が必要になるだろう。例えば、介護をする人が健康を維持できるように、健康診断や運動データなどから、運動プログラムを作成し身体的にサポートしてくれるアプリをつくる。介護の状況や自分の身体的な負担はそれぞれで異なっているはず。アプリで収集・蓄積したデータから、介護する人ひとりひとりの身体や精神的な症状を把握し、同じ施設に勤める職員同士でサポートし合う仕組みを構築できないだろうか。こうした分野をカバーする保険が広がれば介護する人がうつ病などにかかるリスクを回避する機会も増えるだろう。
【以上が紙面掲載のアイデア】
■結婚式の祝儀保険
加納 慎一朗(海陽学園海陽中等教育学校高等科1年、16歳)
私は保険会社が今、ビジネスプランの転換点に位置していると思う。保険は紀元前2世紀ごろ、バビロニアや中国での商人の損失に対する補填が始まりとされている。このビジネスプランは2000年以上たった今も変わっていない。
だが、政府による社会保障が飛躍的に進化し、最低限の衣食住を得ることが簡単になり、破産してホームレスになることはなくなった。だから現代において、保険が損失を補填するだけでは不十分だ。私は新しいビジネスプランとして「効果の損失の防止」を挙げたい。
例えば結婚式が対象になるだろう。結婚式は友人や家族の晴れ舞台であり、気分が高まる。だが、祝儀など気分を盛り下げてしまう経済的な負担がある。それを保険が負担することで「結婚式で損をした」という感情をなくすことができる。生活の様々な場面で「効果の損失の防止」が役立つはずだ。
■「インシュアテック」のプラットフォーマー
増野 秀夫(自営・自由業、63歳)
地球温暖化が一因とされる大規模災害が世界で相次ぐ。地球温暖化に起因する災害が起きたときに、どの地域にどんな被害が広がるのか。損害保険会社は自然災害の事後対応から予測や防災、減災、特に「備災」に軸足を移す。損害保険各社には、保険とIT(情報技術)を融合させた「インシュアテック」のプラットフォーマーの役割を期待する。火災保険契約のデータをもとに国内の家屋に使う材質の情報などを加味し、台風など日本に特化した過去の被害事例を踏まえた自然災害の予測モデルを提供してほしい。災害は忘れたころに来るのではない。今そこにある危機として、毎年台風やゲリラ豪雨が日本列島を襲う。誤差を小さくした予測モデルの開発を急ぎたい。また企業や公的セクターの様々な活動から発生・測定した産業データと、損害保険各社が自社で持つ契約者のパーソナルデータを組み合わせたサービスも提供してほしい。
■利益喪失コンサル特約
中澤 裕二(会社員、57歳)
本人が気づいて申請しなければ受給や還付が受けられない制度が世の中に多数存在する。年金や税金、補助金などは、難しいという先入観で多くの人が敬遠しがちであるため、気付いていない利益の喪失が多く発生しているのではないか。そこで、全ての保険に「利益喪失コンサル特約」を設け、主契約の保険金支払時に、関連しそうな各種制度を人工知能(AI)により横断的に検索。可能性がある受給内容や補助金についての情報提供、社会保険労務士(社労士)・ファイナンシャルプランナー(FP)などの紹介と数時間の無料相談を提供することにより、主契約とは直接関係のない縦割り社会で発生する利益の喪失を未然に防ぐことが可能となる。例えば所得補償保険の場合、障害基礎年金などの受給可能性や、扶養控除で家族の所得税が還付される可能性といった情報と、有資格者による無料相談を提供する。豊富な情報量と知識を持つ損保会社だからこそできる社会的課題の解決である。
■在宅勤務のリスクをカバー
佐藤 真由(目白大学社会学部3年、21歳)
在宅勤務を導入する企業に対応した保険があるといいのではないか。在宅勤務は働き方改革の一環として取り入れる企業が増えている。スマートワークの観点からだけでなく、近年日本では多くの自然災害が発生、そのたびに企業の活動がストップする、または危険な状態であっても出勤せざるを得ないということがある。中国・武漢を中心に大流行している新型コロナウイルスの感染が日本でも確認され、感染予防として在宅勤務を導入した企業もある。こうした不測の事態に備えた働き方としても、今後、在宅勤務の必要性はますます高まるだろう。そこで問題になるのはセキュリティ対策だ。職場以外での勤務では、情報漏洩やウイルス感染などのリスクが高まる懸念がある。自宅での勤務時に、万が一パソコンから個人情報などのデータが漏洩してしまった場合でも、発生する損害賠償を補償する仕組みがあれば、在宅勤務の普及を後押しできるのではないだろうか。
■悪意なき情報リスクにAI保険
大石 叶夢(目白大学メディア学部2年、20歳)
ネット上で発生するプラバシー侵害などのリスクに対応した保険が求められているのではないだろうか。ネット環境がパソコンからスマホに移行し、SNSの普及で手軽に不特定多数の人たちと情報を共有する文化が広がっている。ユーチューバーの活躍は、有名になりたい人、手軽に収益をあげたい人を刺激し、個人が映像で世界に情報発信する動きが広がっていくだろう。それに伴い、プライバシーの侵害や個人情報の流出など、不意に損害を与えてしまうリスクも高まる。悪意もないのに知らず知らずのうちに発信した情報で訴えられ、損害賠償を起こされるケースが増えるだろう。こうした損害で発生した費用を補てんする保険が必要になると予測する。人工知能(AI)に情報発信者の影響力を識別させ、そこから保険料の料率を設定、1年間問題がなければ保険料を軽減する。AIにリスク分析を学習させていくことで、さらなる多様な保険の提供も可能になるのではないだろうか。
■膨大な支払いデータを研究材料に
高橋 雄一(会社員、50歳)
損害保険会社の従来の役割は、損害が発生した後、速やかに契約に沿って支払い手続きを進めることであった。しかし、誰しも損害が発生することは望んでいない。できれば愛着のある自動車や家は壊れて欲しくない。損害を未然に防いだり軽減したりする活動を、外部と連携して強化できないだろうか。保険会社がこれまで蓄積してきた膨大な支払いデータから、体のどの部位がどのような事故でどのような損傷を起こしやすいかを分析する。ある程度部位の特定ができれば、損害の軽減を図るための商品製造をメーカーに依頼する。または大学や国の研究期間に分析データを提供し、素材も含めた研究材料にしてもらう。例えば水害があって屋内に泥水が流れ込んでも、水が引いて数時間後には元の状態に戻る壁の素材を開発したらどうだろうか。また自動車事故形態データを交通システムに反映させ、事故の発生しやすい時間帯や場所での交通網の流れを調整すれば、国民の生活に大きく寄与する活動となるだろう。
■RPG型リスク試算
小島 啓美(会社員、49歳)
保険料の試算も今やネットでできる時代。未加入者対象にできるなら、既存の加入者に対する試算も都度できていいはずだ。今、もしこんな事故が起きたら支払わないといけない金額と、現時点まで支払った保険料と、採算が取れているのかを人生ゲームのように都度金額で確認できるものがあると、保険の見直しで保険をやめようとか、入るだけ無駄、と思わないのではないだろうか。誰でもリスクを金額で可視化できれば、保険に入っていてよかったと思える。そして、ライフスタイルも多様化している時代ゆえ、数値化が難しいこともRPGのように枝葉に分かれて結果が変わるようにしていくと、疑似体験ができると思う。AIで、プレーヤーが増えればそれだけ経験値があがり精巧に仕上がっていく。実際に保険会社はそれを行っていると思うが、それをRPGに落とし込んで欲しい。きっと面白い、だけでなく保険離れを防いで保険の多様化につながると思う。
■デジタルで老々介護をサポート
大橋 史歩(目白大学メディア学部2年、20歳)
日本では少子高齢化で若い世代が減り、高齢者を介護する人材も少なくなっている。高齢者が高齢者を介護する「老老介護」や、介護する人と介護される人の双方が認知症の「認認介護」が同時に社会問題化している。デジタル技術を生かした介護保険があれば、老老介護・認認介護をしている人たちの介護の負担を少しでも減らすことができると思う。例えば、介護する人の肉体的負担を支えるパワードスーツや、自動で寝返りをサポートしてくれるベッドなど、介護に必要な機械を安くレンタル・購入できる保険はどうだろうか。介護によるストレス予防として、人工知能(AI)による介護サポート機能を開発すれば、常に話す相手がいることになり介護中の孤独感をなくせるようになるのではないか。デジタル技術にあまり慣れていない高齢層にも簡単に扱える技術と介護保険が合体すれば、老老介護など、より深刻化している介護問題の課題解決につながると思う。
■投票すれば保険料安く
倉島 研(教職員、44歳)
昨今は地方選挙であれ、衆参の選挙であれ投票率の低下が著しい。そうなると、代議士が国民の代表として選ばれたとは言い難くなる。その結果として、例えば、投票しなかった国民に不利な方向へ政策が偏る可能性がある。この課題を解決すべく、投票率100パーセントを目指し、政治の決定から不利益を受ける程度が国民全体で平準化(リスクの低下)することに寄与する保険商品を提案する。具体的には、選挙における投票行動を各種損害保険料算定の変数に加える。そして、ノンフリート特約のように、投票をしなかった場合には等級が下がって保険料負担が増し、投票を続けていれば等級が上がり保険料が安くなる仕組みを導入する。保険加入者の投票データが得られれば設計できるという簡便さにも関わらず、その企業は民主主義国家における究極的企業の社会的責任(CSR)活動を行っていることになるイノベーティブな特約である。
■サブスクと保険
曽田 昌弘(会社員、40歳)
サブスクリプションサービスが増えたが、保険とサブスクは似ている。サブスクは利用してもしなくても定額費用が発生するが、保険も、変動するとは言え、適用されてもされなくても保険料が発生する。保険は「平穏な暮らし」のサブスクであるとも言える。また、サブスクも保険もデータビジネスだ。この視点からの保険の再構築はできないだろうか。個々の現象・事象に備える保険ではなく、何日間あるいは何年間生きている間の全方位のリスクにシームレスに備える保険だ。そのためには保険会社には膨大なデータが必要になり、ユーザーには多岐に渡る保険内容へ容易にアクセスできるインターフェースが必要だ。この二つは、これまで物理的に到底不可能だったが、デジタル時代には実現可能になるかもしれない。
■技術との共存を後押し
北岡 道和(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部4年、22歳)
テクノロジーは我々の生活に溶け込み、なくてはならない存在となった。特に、インターネットを利用した様々なサービスが普及し、生活をより便利にしてきた。今後IoTや人工知能(AI)により、インターネットを利用したサービスは更に欠かせないものとなるだろう。一方、個人情報の流出やサイバーテロなど新たな問題も出てきている。AIによる自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在など、解決していない議論もある。データを管理する企業やIoT、AIを利用した製品を作るメーカーなどにとって、社会から信用を損なうリスクがある。このような問題を顧客企業と協力して未然に防ぐ努力を行い、万一の時、損害を補償することで顧客はより堅実な企業活動が行える。消費者も損害保険会社にサポートされた企業のサービス、製品をより安心して使えるようになる。社会に対し、テクノロジーとの共存に対する安心感を与えることができるのではないか。
■情報を共有する保険
稲田 正徳(地方公務員、47歳)
損保会社の仕事とは、事故が発生した場合、その損失を調査し、お金を支払い、顧客の生活や事業を持続させることだと思う。しかし、今のデジタル時代、お金では補償しきれない事故がままある。例えば、HDDの個人情報流出事故などがそれである。一度ネットなどに流出した情報は、どんなにお金を払っても元には戻せない。昔に比べてお金の効果はより小さく、情報の効果はより大きくなっている。そこで、あらかじめ保険対象の情報処理機器にGPS端末や、アクセス履歴を損保会社のサーバーに5Gで送信できる小型チップを取り付け、情報が流出した場合、発信源はどこか、現在どこまで情報が拡散しているかなどの情報を補償内容として、顧客に提供する商品を開発・販売するのはどうだろう。補償内容をお金ではなく、情報で提供することで、事故被害を最小限にとどめ、顧客の事業を持続可能ならしめることが、デジタル時代における損保会社の役割になると思う。
■地域を守るコミュニティー
福田 大輔(会社員、37歳)
阪神大震災、東日本大震災。悲しいことに今も発見されていない行方不明者がいる。将来、それらを超える大地震が発生すると言われている。最近の日本では、近所付き合いもなく、マンションに住んでいるのに住人のこともわからないありさまだ。そこでデジタル時代に損保会社に期待する役割として、コミュニティー保険を提案する。今も多くの企業で安否メールなど、決まった時間に送るように指示がある。しかしながら、退職した高齢者には指示もなければ、体調が悪い人は交流会にも行くことができず、寂しい思いをしているはずだ。それに加入すれば、高齢者の家に機械を取り付け、地域で開く食事会や交流会、足が悪い人の家には、訪問という形でつながりをもつことができ、もしもの事が発生しても遠隔操作で会社が対応できる。超高齢化の日本にとって社会的課題な役割につながって行くと思う。
■安心して買い物ができる保険
塩島 悠那(目白大学社会学部3年、21歳)
デジタル時代に損害保険会社に期待される役割。それはインターネット上で、安心で手軽に買い物ができる保険だと考える。クレジットカードに付帯する保険もあるが、条件により安価な品物には気軽に使えないなど、不便な点があるからだ。
2019年10月の消費税増税に伴ってキャッシュレス化が進められ、購入傾向などのデータが集積してきている。このデータを活用して消費動向を分析し、消費者が購入する商品ごとにどんな保険が最適か常に進化させることが可能になると思う。
買い物のあり方は多様化しており、店舗での購入のほかにネットショッピング、フリマアプリなど出品者の顔が見えない取引も多数存在する。これにより生じる問題として、高額転売や商品の破損・紛失、イメージの違う商品が届くケースなどが考えられる。買い物の失敗は消費者にとって身近に起こりうるリスクだ。これをできるだけ避ける保険の開発に期待したい。
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