ろうの写真家が「うた」を考えるドキュメンタリー映画

文化往来
2020/2/26 2:00
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映画「うたのはじまり」の場面(C)2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS

映画「うたのはじまり」の場面(C)2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS

人間にとって歌や音楽とは何だろう。映画「うたのはじまり」は、そんな根源的な問いを投げかけるドキュメンタリーだ。主人公は俳優やミュージシャンらを撮影してきた気鋭の写真家で、生まれつき耳の聞こえないろう者の齋藤陽道(はるみち)さん。子どもを授かったのを機に、彼が苦手だった歌と初めて向き合うようになる姿を映し出す。

河合宏樹監督は演出家・飴屋法水(のりみず)さんの公演で齋藤さんを知り、偶然の出会いを重ねる中で日常を撮影させてほしいと持ちかけた。齋藤さんと彼の妻で同じくろう者の写真家、盛山麻奈美さんが手話で会話する様子を見て「まるでダンスのように美しく、思わず撮りたいと思った」と河合監督は振り返る。

テーマも決めず撮影を続けていたが、麻奈美さんの出産に立ち会ったことが転機になった。河合監督は「齋藤さんから赤ちゃんの泣き声がどんなものだったのかを尋ねられたが、うまく答えられなかった。その時から齋藤さんの問いかけを自問自答するようになり、今回の『うた』というテーマにつながった」と語る。

映画「うたのはじまり」の河合宏樹監督(左)と映画の主人公となった写真家の齋藤陽道さん

映画「うたのはじまり」の河合宏樹監督(左)と映画の主人公となった写真家の齋藤陽道さん

小中学校の音楽の授業は「なにもしないで座っているだけ」だった齋藤さんにとって、音楽と歌は長年嫌いなものだった。ところが、聴者である我が子は手拍子を打つとリズムに合わせて体を揺らす。そして風呂で泣きやまない子をあやしているうちに、齋藤さんの口から思わず子守歌がこぼれる。「子どもが生まれ、聴力検査で聞こえることが分かった時に『この子にとって音は必要だ』と思った。(歌に対する)僕の悩みや葛藤よりも、子どもにとって必要なものを届けることが何よりも重要だった」とその瞬間の思いを語る。河合監督は「うたの本質を齋藤さんに教えられたような気がする。この映画が、人と人とのコミュニケーションの成り立ちを見つめ直すきっかけになれば」と話す。

五線譜に音のイメージを描いた絵字幕を付けたバリアフリー上映も実施(C)2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS

五線譜に音のイメージを描いた絵字幕を付けたバリアフリー上映も実施(C)2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS

齋藤さんの提案で、歌の場面に絵の字幕をつけた「バリアフリー日本語字幕付き」の上映もある。音楽を聞いて浮かぶ情景を五線譜上にドローイングで表現している作家、小指さんの活動を知って、制作を依頼した。「絵字幕を見て初めて自分が歌っているうた、子どもが生まれた時の声が想像できた。絵字幕に新たな可能性を感じている」と齋藤さんは話している。東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開中。その後、全国で順次公開。

(関原のり子)

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