古書の迷宮、京都に潜む 江戸中期創業やネット店
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関西タイムライン
2020/2/20 2:01
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古書籍が店内に所狭しと並ぶ「竹苞書楼」(京都市中京区)

古書籍が店内に所狭しと並ぶ「竹苞書楼」(京都市中京区)

東京・神田神保町ほどの集積はないが、京都は古書店の多い街だ。人口当たりで比べれば、その数は東京23区を上回る。古書店が歴史に初めて出現するのも京都。幾多の変遷を重ね、いま個性豊かな店が街のあちこちに点在する。

京都で最も古い古書店は、寺町通の本能寺門前に店を構える竹苞(ちくほう)書楼だ。創業は江戸中期の1750年。現在の建物は幕末の禁門の変(1864年)で被災後、昔のままを復元して建てた。店頭の「ばったり床机」(折り畳み式の縁台)の上に本が平積みされ、江戸時代の本屋の面影を残している。

■川端康成ら常連

店内は和漢書を中心に画帖(がじょう)や版画などが天井までびっしり。「江戸時代から代々、同じ場所で古書店をしているのは、もうウチぐらいとちゃいますか」と7代目の佐々木惣四郎さん(82)。江戸時代の本屋は出版から問屋、小売りを兼ね、古本売買もこなすのが一般的だったが、竹苞書楼も明治に古本専業になるまでは出版も手掛けていた。

古くは国学者の上田秋成や「日本外史」を著した頼山陽、文人画家の富岡鉄斎など多くの文人らが出入りし、シーボルトはここで北斎漫画の初版を購入したという。戦後は川端康成や湯川秀樹らが常連だった。「川端さんは当時住んでいた下鴨から散歩がてらに来られて、そこに座ってよく話をしました。その頃は、こんないい商売はないと思うぐらい古書がよく動いた」

京都に古本街ができるのは明治以降。京都帝国大学が創立されて市電が開設されると、川端丸太町の電停から熊野神社までの丸太町通は最盛期に20余軒が軒を連ねた。江戸中期からの書肆(しょし)街だった寺町通も古書街になり、河原町通の三条―四条間は大正末から古書店が増えた。

現在、丸太町通にあった古書店街は姿を消し、古書店は三条―四条間、寺町通、京大付近に分散している。だが古書籍商業協同組合の加盟店(2019年)から人口10万人あたりの古書店数(新古書店を除く)を算出すると京都市は7.3店で、東京23区の5.0店、大阪市の3.6店、神戸市の2.8店を上回って全国最多だ。

明治期の木版の図案本の人気が高い(京都古書会館)

明治期の木版の図案本の人気が高い(京都古書会館)

■異彩放つ新世代

その理由は学生が多いことはもちろんだが、仏教書専門店「其中(きちゅう)堂」の4代目で京都府古書籍商業協同組合の三浦了三理事長(59)は「寺が多いので仏教書、また染織が盛んなことから染織の図案本などを扱う店が多い。さらに書画骨董を扱う店が1980年代に組合に加盟し、2000年代以降はインターネット専門古書店が組合に加わったことも大きい」と指摘する。

京都古書会館では月に6回、和書や一般書、美術書などに分かれて組合員による「市」が開かれている。「京都という地層の下を掘っていくと必ず何かが出てくるというのが、よそとは違う」(三浦さん)

町家で3人の店主がシェアする「町家古本はんのき」(京都市上京区)

町家で3人の店主がシェアする「町家古本はんのき」(京都市上京区)

若い世代の本屋も異彩を放つ。「町家古本はんのき」は古本をネット販売する3人の店主によるシェア古本屋だ。住宅街の小さな路地にある築百年以上の町家に店を構える。

「皆さん、ブログなどをみて、迷いながらきてくださいますね」と店主の一人、中村明裕さん(39)。文学、歴史、美術、絵本、漫画などジャンルは多岐にわたる。押し入れの戸を外して本棚にし、3人の店主が日替わりで店番をする。各自が得意分野の本を一緒に棚に並べ、本の奥付の値札で誰の本であるかがわかる仕組みだ。

夏の風物詩となった8月の「下鴨納涼古本まつり」(京都市左京区の下鴨神社)

夏の風物詩となった8月の「下鴨納涼古本まつり」(京都市左京区の下鴨神社)

そのほか"山の本"ばかりを集めた軟弱古書店、古本だけの"猫の本"専門店の猫本サロン京都三条サクラヤ、幻想文学を集めたアスタルテ書房など個性的な店は数多い。全国から古書ファンが集まる「京の3大古本まつり」も忘れてならない。1977年、当時の古書店の若手店主らが「京都古書研究会」を結成。百万遍知恩寺の「秋の古本まつり」、5月の「春の古書大即売会」、8月の「下鴨納涼古本まつり」はいまやすっかり風物詩となった。

古本まつりの常連で古本エッセイストの山本善行さん(63)は「本を通して何かを学ぼうとしている若い人が輝ける場所を作りたい」と2009年、銀閣寺近くに「古書善行堂」を開業した。「棚も店主も個性的な店が多いのが古本屋。古本屋にはいろんな形がありうるし、こうでなければだめという決まりもない」

古いものと新しいものが共存する京都の古書界。その迷宮に分け入れば、思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれない。

(岡本憲明)

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