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「人生100年じゃ足りない」 養老先生、元気の秘訣

「人生で今が一番楽しい」と語る養老孟司氏

「バカの壁」などのベストセラーで知られる東京大学名誉教授の養老孟司氏。東大医学部の解剖学の教授などを務めた医学者で、引退後は文筆や講演活動の傍ら、趣味の昆虫研究にいそしむ。現在82歳だが、「人生で今が一番楽しい。充実している」と話し、健康そのもの。養老先生の元気の秘密に迫った。

「東京は嫌いだな。たばこを吸うところがあんまりないからね」。今も毎日たばこ一箱はあける。肺がんの一因になるとの指摘もあるが、「ストレス解消のほうが大事だから」と気にしない。都内に来るのは講演などが入っている時ぐらいで、大半の時間は自宅のある鎌倉(神奈川県)や箱根(同)で過ごす。

養老先生は4歳の頃に父親が亡くなり、母子家庭で育った。中学高校はミッション系の名門校、栄光学園(鎌倉市)に通った。「面白い先生がいてね、昆虫分類のプロの先生も2人いた」。この学校を勧めた母親は当時では珍しい女医だった。戦後のどさくさの中で、食べ物に困らず、生き抜けたのは開業医だった母親のおかげ。「手に職があったほうがいい」といわれ、東大に入って医学部に進学した。

「東大教授ともあろうものが」は大きなお世話

しかし、もともと患者を直接診断したり、治療したりする臨床医には向いていないと思っていた。「僕は愛想がないから。理屈っぽいしね」。結局医学部を卒業してインターンを経た後、選んだのは解剖学の道だった。以来向き合ってきたのは遺体。「医療ミスだと訴えられることもないが、外科医などのように特別感謝されることもない」。1981年に東大教授となり、95年に退官するまで国内最高峰の「白い巨塔」で教べんをとったが、決して居心地はよくなかったという。

「国家公務員ともあろうものが、東大教授ともあろうものが、こんなところで飲んだくれていていいのか、とか言われると、大きなお世話だよってね。『ともあろうもの』はストレスのもとだ」という。東大医学部教授の発言は重く、影響力も大きい。不用意な言動は慎まなくていけない。57歳で退官後に他大学の教授になり、その後は文筆業や講演にシフト、どんどん自由な立場になった。2003年に出版されたバカの壁は実に400万部を超える大ベストセラーになった。解剖学の権威は一躍時の人になった。

「ストレスフリーで自由に生きるのが一番」と語る

80代に突入したが、「春眠暁を覚えずというけど、今年は暖冬だからよく眠れる。9~10時間ぐらい寝るかな」と笑う。年をとると、体力もなくなり、睡眠時間は短くなるといわれるが、「昆虫採集で、野山を歩き回っているから、結構体力はある」という。

健診は受けない「カラダのことはカラダに任せる」

驚いたことに「定期的なメディカルチェックは受けていない。血圧の数値も知らない。実はクスリも飲んでいない」と明かす。医者の不養生といわれそうだが、「僕も一応医者だから、現在のカラダの具合はわかるわけです。でもクスリを飲むと本来の体調が分からなくなる。血圧とか、修正されますから。それに年をとって、血圧降下剤とか飲むと体の隅々にまで血液が行き渡らなくなるリスクもある」と持論を展開する。ただ、「体調に合わせて半分ダイエットとかやっている。出されたご飯の半分しか食べないとか、それだけだけど。頭でコントロールしないで、カラダのことはカラダに任せる」と話す。

日本人は欧米人と比べて1人あたりの薬の使用量が多いとの指摘がある。有効成分の強いクスリにはそのぶん副作用があるケースもあり、「毒になる場合もある」という。型どおりの定期健診にも懐疑的だ。「30年ぐらい前だけど、僕が東大の教授だったときかな、公務員だから大学の先生は毎年、健康診断を受けないといけない。しかし、医学部は東大の10学部のうちで受診率は最低、4割ぐらいだったかな」と振り返る。

養老先生が勧めるのはストレスフリーで自由な生き方だ。「一昔前だけど、フィンランドの当局が、健康を徹底的に管理するグループと自由奔放に過ごすグループに分けて、10年以上にわたり健康状態を経過観察したら、管理されたグループの方が病気になったり、死亡したりする人が多かった。フィンランドシンドロームと呼ばれているけど、タバコはダメとか、酒を控えろといわれ、ストレスをためるより、自由に生きているほうがやっぱり健康にはいいんじゃない」と養老節がさく裂する。

医学界では、クスリや治療法、健診のあり方などを巡り、常に異論反論が繰り返される。エビデンス(科学的根拠)がもっとも重視される世界だが、個人差があり、どのように健康を維持し、病気を治すかは人それぞれと言える。そんな中で養老先生が追求してきたのは常に自然との共生だ。「現代人は頭で物事を考え、自然をコントロールしようとしてきた。20世紀になって急速に都市化が進んだが、一昔前は大半の人々は田舎暮らしだった。僕は自然の中で生きていきたい。それが一番健康にもいい」と話す。

多くの時間を大好きな昆虫の研究に充てている

少年時代から変わらずに続けられる幸せ

ウェルエイジング世代へのアドバイスも聞いた。「人生100年と言われるようになったけど、僕たちの頃はそんなこと考える余裕は無かったなあ。アドバイスするとすれば、仕事はイヤイヤでも一生懸命やる。イヤとかで無く、好きになれ、と言いたい。そうすれば、辞めたときの開放感があるから。僕の女房も『あなた、辞めてからの方がいい表情になったわよ』と言ってた」と笑う。そして、「仕事でも、仕事以外でも、ほんとに好きでやれること、続けられることを見つけるのがいいんじゃないかな」と付け加える。

今、養老先生はほとんどの時間を昆虫の研究に充てている。鎌倉と箱根の2拠点をベースに野山を歩き回り、昆虫を採集し、時間のあるときは1日5~6体の昆虫を解体、標本にする。「昆虫をバラバラにしてデジタル顕微鏡で観察し、比較・分析する。結構、細やかな作業があるから大変だよ」とうれしそうに話す。時には海外にも足を伸ばす。ラオスなど熱帯地域を訪問、夢中になって珍しい昆虫を探し回る。

少年時代も今もやっていることは変わらない、ずっと生物系の研究者だ。昆虫を追い掛け回し、なぜこんな形をしているのだろうと探求してきた。解剖学も同じ。「東大教授時代は、ストレスは多かったが、仕事自体は面白かった」という。「人生も自然も、自分の思い通りになんかならない。でも、そこがいいんですよ」と、ぼそっとつぶやく。

デジタル顕微鏡の精度は高くなっている。「新しい発見が次々あるから、何年やっても飽きない。人生100年じゃ足りないね」と眼を輝かす。標本にした昆虫の数は少なくとも5万体、10万体以上あるかもしれないという養老先生。日頃、森の中を歩き回っているため、足腰の衰えは少しも感じさせない。大手町の日本経済新聞社からJR東京駅まで20~30分程度の道のりを徒歩で行くという。「では東京駅の喫煙ルームで一本たばこを吸ってから帰りますか」とニヤリと笑って去っていった。

(代慶達也)

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