井上ひさし没後10年、初期戯曲よみがえらせた快作

2020/2/19 2:00 (2020/2/28 13:18更新)
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高橋一生の悪の魅力が光る

高橋一生の悪の魅力が光る

井上ひさしの没後10年を期し、快作が生まれた。シェークスピア37作品と江戸時代の講談を掛けあわせる奇作が新演出でよみがえり、大劇場を盛り上げている。中小の劇場で鮮烈な演出をみせてきた藤田俊太郎は、大劇場の演出家としても注目を集めそうだ。

上演作「天保十二年のシェイクスピア」は、下総国清滝村で繰り広げられる侠客(きょうかく)の抗争を描く。「リア王」の領土分割、「マクベス」の魔女、「ハムレット」の亡霊、「リチャード三世」の成り上がりなどを手品のように織り込む。ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」で頭角を現した藤田は今回も舞台の縦軸を生かし、台車のように動く二階屋のセット(松井るみ美術)で、リズミカルに場面を転換する。ミュージカル仕立てで、言葉遊びをボサノバにするバラエティー・ショー風の音楽(宮川彬良)も井上演劇にぴったり。

江戸の戯作者の伝統を継ぐ井上は、趣向や技法こそが芝居の本質と考えた劇作家だ。ことに初期作品にその色合いが濃く、1974年初演の上演作はその代表例。演出家の蜷川幸雄が2005年にリバイバルし、今回は当時演出助手だった弟子の藤田が再挑戦した。俳優、スタッフの総力戦で井上、蜷川へのオマージュを捧(ささ)げた舞台には、生身の表現がもつパワーが充満する。

小気味よく舞台は転換する

小気味よく舞台は転換する

複雑に入り組む台本を一部カットし、聖と俗が反転する人間の底知れなさが平明に見えてきた。下流社会の差別と偏見から生まれる悲しき「悪」は上昇し、やがて民衆に引きずり下ろされる。井上の初期戯曲の読み込みと空間設計が響き合った演出だ。

高橋一生の悪役が水際立った好演となった。語り部役の木場勝己、老女の梅沢昌代、侠客の辻萬長が井上演劇の要諦にふさわしい働きで、浦井健治の活力、唯月ふうかの俊敏な早変わりもいい。このワン・チームの求心力は、演劇に全霊を傾けた井上・蜷川の見えない遺産がもたらしたといえよう。新型コロナウイルス感染症対策のため、東京・日生劇場公演は2月27日で終了、大阪公演は中止。

(内田洋一)

最後は幽霊の大合唱になる

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