中村中、声なき声に寄り添う表現(音楽評)
大阪公演

関西タイムライン
2020/2/14 2:00
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多彩な声のトーンを楽曲ごとに使い分けた=山田 徳春撮影

多彩な声のトーンを楽曲ごとに使い分けた=山田 徳春撮影

シンガーソングライターの中村中(あたる)が、ニューアルバム「未熟もの」を携えてひとりで演じるアコースティックツアーの大阪公演を、去る1日、ライブハウス「umeda TRAD」で行った。

デビューした2006年のシングル「友達の詩」で自らトランスジェンダーであることを公表した中村。最近でこそLGBT(性的少数者)への理解度は深まってきているものの、子供の頃からあらゆる逆風の中を生き抜いてきただけに、「自身の素直な感情を吐き出し、あるがままの自分と向き合うことが曲を作る原動力になった」と言う。

暗転になった場内に流れた登場のBGMは、アメリカのロックバンド、カンサスのヒット曲「すべては風の中に」。中村の歌世界に通じるアコースティックで繊細な曲だ。

ライブは一昨年のアルバム「るつぼ」収録の「たびびと」でスタート。3曲目は最新作を作るきっかけになった東京都目黒区で起きた女児虐待事件を曲にした「親と子」。人は未熟でもいい。完璧を求めすぎるから差別や虐待が起きる。強要したりされたりしない関係でこそ、おだやかな時間をつくれるのではとのメッセージがこめられている。

初期の中村の曲は、自身の怒りや葛藤に裏打ちされた曲が多かったが、デビュー10周年あたりを境に救いを求める声なき声に寄り添うような曲が増えた気がする。

ライブではこれまで通り、歌詞が持つ鋭い切っ先がこちらの心にグサリと突き刺さったが、今回改めて感じたのは中村のヴォーカリストとしての魅力。男性的な声、包容力あるフェミニンな声、可愛(かわい)い女の子の声など、多彩な声のトーンを楽曲ごとに使い分けて歌っており、表現力、伝達力がかなり高まっていた。

(音楽評論家 石井 誠)

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