大阪駅前ビル、一等地なのに「ビール180円」なぜ?
とことん調査隊

関西タイムライン
2020/2/18 2:01
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JR大阪駅の南側にある4棟の「大阪駅前ビル」。外観は普通のオフィスビルだが、地下に広がる飲食店街は夕方になると酔客であふれる。人気の理由は庶民的な雰囲気と安さだ。店頭には「ビール199円」「飲み放題90分1000円」などと書かれた看板が並ぶ。記者もちょくちょく足を運んでジョッキを傾けるが、こんなに安くて「もうかりまっか?」。

第1から第4まである駅前ビルは1970~80年代、大阪市による再開発で建てられた。地下の商業エリアは飲食店に交ざり、パチンコ店や金券ショップなど様々な小規模店が軒を連ねる。まずはビール最安店を探す。目に入ってきたのが「生中180円(税別)」の看板。時間帯や注文数の制限もない。早速、潜入取材を始めた。

看板にあった生中(生ビール中ジョッキ)とおすすめのだし巻き卵、どて焼きを注文した。店名を明かさない条件で店主の中原秀明さんに話を聞くことができた。「開店当初だけ安くして、あとで値上げするつもりだったが……。周りも安いし、180円のままでいいかと」。ビールは「ほぼ原価」で提供し、利益はほとんどないと明かす。

2010年前後の駅前ビルには空き店舗が目立ったという。最近は飲食店の出店が続き「賃料はかなり上がっている」(地元の不動産会社)。大阪市中心部の一等地にありながら、低価格で採算をどう確保しているのだろうか。

中原さんの店を取材したときは午後4時台ながら、背広姿のグループらで40弱ある席の3分の1は埋まっていた。駅前ビルは大阪駅のほか、JR北新地駅や大阪メトロ東梅田駅などに近い。帰宅や乗り換えのため飲食店街を通る人は絶えず、時間を追うごとに空席がなくなっていく。

「客単価は1人2000円ちょっとだけど、午後11時の閉店までに3回転はする」と中原さん。平均的な居酒屋と比べると高い。周囲に居酒屋が集まるだけに、フロアを回遊しながら店選びをするグループも多い。中原さんの店は店頭の看板だけで広告を出す必要はないという。

運営も徹底して効率化している。キッチンは3人、ホールは2人でこなす。お客が増える午後6時からは通路向かいの「はなれ」も開けるが、「こっちから運べる」とキッチンはない。40席強のはなれは金曜日以外、中原さんだけで対応する。「個人店のうちは必死。4人席に2人だけで座らせるなんてできない」

第3ビルにある居酒屋「新・酒場なじみ野」ものぞいてみた。ファミリーレストランチェーンのフレンドリー(大阪府大東市)が6年ほど前に出店した。なじみ野は全6店うち3店が駅前ビルに入居している。しかも第3ビルでは地下1階と地下2階にそれぞれある。顧客を奪い合う気もするが「どの店も売り上げは好調」(同社)。

駅前ビルで複数店を運営するのはフレンドリーだけでなく、ほかの店もにぎわっている。駅前ビルの集客力は飛びぬけており、広告費を抑えられる。一方、競争も激しいため、効率的な運営を通じてさらにコストを減らし、低価格で提供する飲食店が多いとみられる。

4棟のなかで最も新しい第4ビルも完成から30年以上経っている。建て直しの計画はないのか、再開発を主導した大阪市に聞くと意外な答えが返ってきた。「駅前ビルはすべての区画を分譲、または等価交換で引き渡した。もう市に主導する権限はない」(都市整備局の松原栄次・市街地再開発担当課長)

松原さんによるとテナントは上層階を含め、4棟で合計2000件もある。これだけの区分所有者の意見を集約するのは一筋縄ではいかないだろう。しばらくはこれまでのように手ごろな1杯を楽しめそうだ。(中村元)

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