勝利のメンタリティー(山本昌邦)

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サッカー、パリ五輪へ道険しく 今から議論・準備を

2020/2/13 3:00
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東京五輪最終予選を兼ねたサッカーのU-23(23歳以下)アジア選手権(1月8~26日、タイ)で本大会出場の切符を手にしたのは優勝した韓国、準優勝のサウジアラビア、3位のオーストラリアだった。現地で痛感したのはアジアの2番手グループの台頭であり、4年後のパリ五輪アジア予選の難しさだった。

サッカーのU-23アジア選手権で日本は1次リーグ敗退に終わった=共同

サッカーのU-23アジア選手権で日本は1次リーグ敗退に終わった=共同

ベスト8が出そろったとき、いつもの顔ぶれと違ってきたと感じた。韓国、サウジ、オーストラリア、アラブ首長国連邦(UAE)に中央アジアのウズベキスタンまでは想定内として、タイ、シリア、ヨルダンが8強に割り込んできた。

一方でイラン、イラク、2022年ワールドカップ(W杯)開催国のカタールは1次リーグで敗退。特に、A代表で常に日本のライバルとなるイランに目を引くタレントが乏しいことに、試合の勝ち負けより驚かされた。厳しい国際情勢、国内事情がイランやイラクの選手育成を相当難しくしているのかもしれない。

タイは大会初の8強入りを果たし、地元ファンを熱狂させた。準々決勝でサウジにPKを取られ、0-1で敗れたものの、チームを率いる西野朗監督は「ヒストリーメーカー」と称賛され、すごい人気になっていた。

西野監督(右端)率いるタイは大会初の8強入りを果たした=共同

西野監督(右端)率いるタイは大会初の8強入りを果たした=共同

東京五輪の出場権を獲得した3チームは、選手をローテーションしながらベストメンバーを準々決勝に持ってきたことで共通する。東京行きを最重要課題とした彼らにとって、そこが一番大事な試合だったのだろう。ベスト4に勝ち上がれば、そこで負けても3位決定戦でもうワンチャンスある。その2回の挑戦権を得るために準々決勝に万全を期した。そんなターンオーバーを可能にする層の厚さが彼らに五輪切符をつかませたともいえる。

対照的だったのは3位決定戦でオーストラリアに敗れたウズベクだ。2年前の同大会の優勝メンバーが半分以上残る好チームだったが、メンバーをほぼ固定して戦い続け、タイの暑さにすり減って最後に膝を折った。

ウズベクは2年前も同じようにメンバーを固定して戦い、開催地が1月の中国だったから気候から来るダメージを軽微にとどめて優勝することができた。サッカーの中身自体はぱっとしないオーストラリアがウズベクを今回僅差で上回れたのは、フレッシュな選手を逐次投入する選手起用が最後の最後で奏功したからだ。開催地の気象条件に合わせた戦略の有無も3位決定戦の明暗を分けたといえよう。

2強は選手のレベル高く、準備も万全

サウジや韓国は準備も万全だった。サウジは今大会に備えて約1カ月のキャンプを昨年12月に張ったという。韓国も12月の東アジアE-1選手権(釜山)の際、U-23選手権に出場する選手を別に集めて合宿で鍛えた。両チームとも12月末には東南アジアに来て、練習試合もこなしていたという。本気で五輪に出る気なら、本命組はそれくらいのことはやるということだろう。

選手のレベルも高かった。サウジのハッサン・アル・タムバクティ主将とサウド・アブドゥルハミドはA代表のレギュラーDFだった(その頼れる主将をケガで決勝戦の途中で失ったことが韓国戦の敗因になった)。サウジは有力選手がほぼ全員国内にいるから、自分たちに都合のいいタイミングで選手を集めて強化ができる。アンダーエージ各カテゴリーのアジア予選を突破するのに向いた体制を非常に取りやすい国なのだ。

日本は逆だ。東京五輪世代にA代表でも戦えるタレントがいないわけではない。むしろ堂安律(PSVアイントホーフェン)、久保建英(マジョルカ)、三好康児(アントワープ)、冨安健洋(ボローニャ)ら多士済々である。しかし彼らは皆、欧州にいて、1月にタイに呼ぶのは難しい選手ばかりだった。日本には五輪予選突破に不向きな条件がどんどん積み上がる感じがある。

堂安(右)ら欧州で活躍する日本選手が増えているが、彼らを五輪のアジア予選に呼ぶのは難しい=共同

堂安(右)ら欧州で活躍する日本選手が増えているが、彼らを五輪のアジア予選に呼ぶのは難しい=共同

今夏の東京五輪は開催地特権としてアジア予選を免除された。しかし、次の24年パリ五輪の予選はどうか。

アジアで五輪最終予選を兼ねるU-23選手権は、毎回開催時期が1月で固定されている。パリ五輪予選なら24年1月というわけだ。そのタイミングで、もし日本の主力が今回のように軒並み欧州にいたら、所属クラブの戦いが真っ盛りの1月に彼らを大会に呼び寄せるのは至難の業となる。A代表と違ってU-23の試合には日本サッカー協会に選手の拘束力はない。クラブに断られたら、どうしようもないのである。

今をときめくリバプールに招かれた南野拓実、レアル・マドリードを"本籍"とする久保の例を出すまでもなく、日本の若いタレントに対する評価はうなぎ登りだ。若い選手の海外志向も強く、4年後の最終予選も、今回のように、俊才がほとんど欧州にいることは十分あり得る話。

呼ぶのが難しい選手をどう最終予選に集めるか。日本サッカー協会が欧州に事務所を構えて各クラブ、各代理人と緊密なコミュニケーション、信頼関係を築く。日本における五輪サッカーの重要性をしっかり認識してもらい、1月の最終予選と7月の五輪本番、そこだけは選手の招集を認めてもらうような契約を結んでもらう。

あれこれ方策を考えてみるものの、緻密に、時間をかけて、準備しないことには、越えられないハードルといえる。とにかく、今のままでは、4年後、パリにたどり着くのは難しいということだけは確かだ。

国内組だけで勝つこと可能だろうが…

「そんなことなら、いっそのこと、国内組だけで戦えばいい」という意見も当然出てくるだろう。私も国内組だけで勝つことは十分に可能だと思っている。ただし、それをやるなら今回のサウジや韓国のように、予選の1カ月前、つまり12月からキャンプを張るくらいの準備は最低限必要だ。

Jリーガーの12月は、J2の昇降格プレーオフがあったり、天皇杯があったりで、選手によってシーズンが終わる時期はばらばら。それゆえに選手のコンディションにもばらつきがある。それらを等しくまとめて戦えるチームにするには、スケジューリングの中での12月の取り扱いが非常に大事になってくる。

本来、若い世代に欧州組が増えるのは、日本の育成が評価されている証しなのだから悪い話ではない。若くして欧州で鍛えられた選手が増えることは、五輪本番でメダルに近づく可能性が高まることも意味する。が、それも五輪に出られたらの話。

五輪出場を決めたら決めたで、国内組がアジア予選で苦労の末にもぎとった切符を、予選を戦わなかった欧州組が本大会で使うのはどうか、というような議論も出てくるかもしれない。「それでは国内組があまりに気の毒だ」と。

日本の若い選手のレベルは間違いなく上がっている。どちらも決勝トーナメント進出を果たした、昨年のU-17、U-20のW杯を見てもそれは明らか。その選手のレベルの上昇をチーム力にどう還元していくか。あちらを立てれば、こちらが立たず、そんな関係が今はあちこちにある。

簡単には答えは出ない。だからこそ、今からパリ五輪について、サッカー界全体でよくよく議論していく必要があると思うのだ。

(サッカー解説者)

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