Origami買収 対PayPayで消耗した企業価値
グロービス経営大学院教授が「企業価値評価」で解説

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2020/2/14 2:02
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メルカリは、傘下のメルペイがスマホ決済のパイオニアであるOrigamiの全株式を取得し、完全子会社化すると発表しました。買収金額は、上場会社による買収では異例の非公表でしたが、「ただ同然の価格だったのではないか」とも報道されています。2019年11月の日本経済新聞「NEXTユニコーン調査」で417億円の企業価値と推計されていた企業をどう評価すべきでしょうか。グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が、「企業価値評価」の観点から解説します。

解説ポイント
・株主らの期待投資利回りが企業価値を左右
・前提条件である事業計画が重要

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■企業価値とは?

企業の資産価値評価の手法として「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法」があります。これを企業価値の算定に活用したものが「WACC(加重平均資本コスト)法」です。「WACC法」では、資金提供者に自由に分配できるキャッシュフロー(フリー・キャッシュフローと呼びます)を、資金提供者が期待する利回りWACCと呼びます)で現在価値に割り戻して企業価値を計算します。

フリー・キャッシュフローは、一定の前提条件の下で作成された事業財務計画から、「営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資-追加運転資本」の式で計算されます。「営業利益×(1-税率)+減価償却費」は企業が事業から生み出したキャッシュフローです。ここから企業として成長のために必要な「投資」、そして円滑な事業活動維持のために必要な「追加運転資本」を控除した後に残るキャッシュフローがフリー・キャッシュフローです。企業として取り置いておく必要がないキャッシュ、つまり余剰なキャッシュです。余剰であるから、資金提供者に自由(フリー)に返還できるキャッシュです。このため、フリー・キャッシュフローと呼ばれています。

一方、フリー・キャッシュフローに適用される割引率である「WACC」は、企業が円滑な事業活動ができるように資金を提供した銀行、社債権者のような有利子負債の提供者、企業に株主資本として資金を提供している株主、それぞれがその企業・事業に期待している投資利回りの加重平均値です。

事業資金の提供者に自由に分配できるフリー・キャッシュフローをWACCで割り戻すことで、企業が持つ事業資産の価値、つまり企業価値が算定できるというロジックです。従って、買収価格である企業価値が急減するということは、当初の想定(期待している投資利回り)に反して、フリー・キャッシュフローの額が大幅に減少したことを意味します。

■スマホ決済の競争環境は激変

Origamiは2016年にQRコードを利用した決済サービスを開始したスマホ決済事業のパイオニアでした。先の417億円という企業価値評価は、スマホ決済事業のパイオニアとして競合に伍(ご)して順調に事業が拡大し、十分な利益を出していけるという事業計画を前提としたものです。

しかし、2016年に楽天が、2018年にはソフトバンクグループ傘下のPayPayが参入し、スマホ決済業界の競争環境は激変し、消耗戦となっていきました。特にPayPayは豊富な資金力を武器に、「100億円還元」に代表されるような大規模還元キャンペーンとともにテレビCMも展開して、利用者と加盟店を急拡大してきています。Origamiも対抗して還元策を打ち出したものの、資金力の限界から大手企業の後塵(こうじん)を拝することを余儀なくされました。

Origamiは2018 年12月期の売上高2億2千万円に対して営業赤字は25億円で、これまで累計で88億円を調達したものの、業界における消耗戦が事業計画を狂わせると同時に資金繰りを大きく圧迫するようになりました。競争環境の激変、そして資金繰り面からも企業としての存続可能性が疑われるようになりました。当初の事業計画の信ぴょう性が大きく損なわれてしまったのです。

■「ただ同然」報道が意味すること

仮に、当初の事業計画の実現可能性が1%に低下すれば、企業価値の式である「企業価値=フリー・キャッシュフロー÷WACC」の分子であるフリー・キャッシュフローも1%に低下します。WACCは変わらないので、企業価値は1%に急減してしまいます。したがって、当初417億円であった企業価値も4億円に急低下することになります。

買収し、テコ入れしようという企業が現れなければ、倒産となり、その株式は紙くずとなってしまいます。「ただ同然の価格」ということは、Origamiの当初の事業計画の実現性どころか、企業としての存続可能性自体までもが危惧されていることの表れといえます。

企業価値の算定はその前提条件次第であり、前提条件が大きく変化すれば、企業価値も大きく変化せざるをえません。企業を買収する際の買収価格も、買収後その企業をどの様に統合して運営し、シナジー(相乗効果)を実現していくのかという、明確な青写真があって初めて、買収後の事業計画そしてその事業計画をもとにした買収価格も信ぴょう性を帯びてくるのです。

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。銀行からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーの取締役CFOそして米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、東証1部上場モバイル向けコンテンツ配信企業の取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

企業価値評価」についてもっと知りたい方はこちら https://hodai.globis.co.jp/courses/38848dba (「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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