タイ、犯罪時のSNS利用制限検討へ 銃乱射で生中継

2020/2/10 17:30
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【バンコク=村松洋兵、シドニー=松本史】タイ政府は8日に起きたタイ軍兵士による銃乱射事件を受け、犯罪発生時のSNS(交流サイト)の利用制限の検討に入る。事件では兵士の男が犯行の様子をフェイスブックの生中継機能で配信し、国内外に大きな衝撃を与えた。タイ政府は週内にも会議を開き、容疑者のアカウント凍結やメディアの報道規制などに関して議論する。

男が立てこもっていた商業施設前で、捜査にあたる当局者(9日、タイ東北部ナコンラチャシマ県)=AP

プラユット政権はもともと情報統制に力を入れており、さらなる規制強化が表現の自由を抑圧する危うさもはらむ。

タイ国営通信によると事件の死者数は30人、負傷者は58人に達した。タイでは2015年にバンコク中心部で起きた爆弾テロ(死者20人)を上回る犠牲者数となった。プラユット首相は「このような最悪な事件がタイで起きたのは初めてであり、二度と繰り返してはならない」と述べた。

男は上官を殺害した後に路上などで銃を乱射し、商業施設に立てこもった。動機は明らかになっていないが、一部メディアは不動産売買を巡る金銭トラブルを抱えていたと報じている。

「もう疲れた。指を引くこともできない」。男は逃走中に自身のフェイスブックに投稿して生中継した。政府の情報開示が遅れるなか、真偽不明の情報が拡散して混乱に陥った。政府はフェイスブックに要請して男のアカウントを削除するとともに、救出活動の妨げになるとして、商業施設内に閉じ込められた人や報道各社にもSNSでの生中継の自粛を求めた。

政府は事件を受け、犯罪発生時のSNS利用の制限などについて議論する会議を週内にも開く。プティポン・デジタル経済社会相は「投稿の正確性や内容を考慮せずにシェアするのは慎むべきだ」と国民にもくぎを刺した。10日には、別の男が他の商業施設を襲撃するという虚偽の情報を投稿したとして、その男を逮捕したと明らかにした。

規制強化は言論弾圧のリスクの裏腹だ。

軍主導のプラユット政権は、もともとインターネット上の情報を規制しようという姿勢が強い。19年にはデジタル経済社会省の傘下に「フェイクニュース対策センター」を設置した。これまでに軍政に批判的だった活動家を逮捕したほか、ネットカフェに対して利用者の閲覧履歴を提出するよう求めるといった規制策を講じた。

19年の民政復帰後も政治の実権を握る軍への批判を抑え込む狙いがあるとみられる。とりわけ今回の銃乱射事件は兵士が起こした事件であり、批判の矛先が軍に向かうことも考えられる。政権が再発防止の名のもとに情報統制を強める可能性は捨てきれない。

世界では凶悪事件の犯人によるSNSの中継が度々起き、各国政府は規制強化に動いている。

19年3月にニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで発生した銃乱射事件では、犯人の男がフェイスブック上で銃撃の様子を中継し、動画は約4千回視聴された。フェイスブックは動画を削除したが、その後も他のSNSを通じて動画は世界中に拡散した。

NZ政府は乱射事件の3日後、中継された動画が「過激な暴力およびテロの描写、助長」に当たるとして、視聴や所有、拡散が違法となる対象に指定した。

オーストラリアは同年4月、SNS運営企業にテロなど犯罪行為の動画を迅速に削除することを義務付ける法律を成立させた。

テロ組織はSNSを通じて過激思想を流布したり、戦闘員を勧誘したりしており、各国はテロ組織によるSNS悪用にも神経をとがらせている。

5月にはフランスのマクロン大統領とNZのアーダーン首相が主導し、ネット上のテロ扇動情報の削除を柱とする「クライストチャーチ宣言」をまとめた。会合にはフェイスブックやツイッターの幹部も参加し、これまで日本も含め約50の国や機関が支持を表明した。

SNS上の情報をどう規制するのか。国による恣意的な言論統制につながるおそれがつきまとうだけに、各国政府やSNS運営企業ともに手探りでルールづくりを続けている。

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