高卒人材は「金の卵」 人気急上昇でルールにひずみ
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2020/2/11 2:00
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埼玉労働局が開いた就職面接会は参加枠の6倍近い企業が応募した

埼玉労働局が開いた就職面接会は参加枠の6倍近い企業が応募した

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学生側の売り手市場が続く採用戦線。大卒者を思うように採れない企業が今、熱い視線を注いでいるのが高卒者だ。若さゆえの「素直さ」と潜在的な成長力に注目する企業が増えている。

JR高崎線の行田駅(埼玉県行田市)から車で10分。工事用足場のレンタルや設置代行を手掛ける千歳商会(東京・台東)「熊谷サービスセンター」の一角で、2人の若者が鉄パイプの束をトラックの荷台に運び上げていた。周囲には建設現場で大工や塗装業者など職人の足元を支える資材が大量に置かれている。

相原圭樹さんと松本奏空さん。2019年春、関東一円で事業を展開する千歳商会に入社した。総合職だが1年目なので足場の仕事を覚えるため、各地の工事現場に派遣されている。

適切な資材量の見積もりや実際の荷降ろし、さらには足場を組み立てる専門職人のサポート業務まで、何でもやる。入社間もない頃は「職人さんに『げんのうを持ってきて』と言われても、ハンマーのことだと分からず叱られた。話しかけるのさえ怖かった」と松本さんは振り返る。相原さんは記録的な猛暑が続いた19年夏の現場作業が「特に体にこたえた」という。

将来の中核として期待される2人の年齢は19歳。地元の高校を卒業し昨年入社した。同期入社の8人も同じく高卒だ。もともと千歳商会では新卒採用で大学卒も募集していたが、売り手市場が続いたこともあり苦戦。そこで、17年に実施した18年4月入社の社員を対象とする採用活動から高卒採用に絞ることにした。採りにくい大卒にこだわるよりも高卒を鍛え上げて戦力化するよう方針を切り替えたのだ。

大卒社員の中には現場業務を避けたがる者もおり、「高校生は素直で現場作業に対する先入観を持たずに入社してくれるだろう」との思いもあった。しかも大卒者に比べて4年早く就職する分だけ早く育成できる。狙い通り「『乾いたスポンジが水を吸うように』成長していく様子を、目の当たりにしてきた」。同社ビケ事業部人材開発部課長の小林仁氏はこう顔をほころばせる。

■エンジニアなどにも高卒採用の対象職種が広がる

大学卒の新卒採用戦線が話題となることが多いが、実はより熱を帯びているのが高卒人材の奪い合いだ。

「高卒採用は大卒採用を超える売り手市場」

現状をこう説明するのは高卒採用を支援しているジンジブ(東京・港)の佐々木満秀社長だ。同社の高卒向け求人紹介サイト「ジョブドラフト」で、20年卒の掲載申し込み数は1108社と2年前の4.8倍に増えた。「大手に比べ大卒採用で苦労しがちな中堅・中小企業を中心に、高卒の採用を始めたいという問い合わせが増えている」(同)

これまで大卒を中心に採用していた企業も、若手の人材不足を解消する貴重な戦力として、高卒に目を向ける企業が増えている。千歳商会のような会社が全国で増えているわけだ。

厚生労働省などの調査によると、20年春の高卒予定者に対する求人倍率は19年11月末時点で2.80倍に達している。過去9年に渡って上昇し続けている。集計の方法や時期が違うため単純な比較はできないが、リクルートワークス研究所(東京・中央)によると大学生の20年春卒業予定の大学生の求人倍率は1.83倍(19年4月時点)。高卒採用市場の方が大卒より逼迫している状況が浮かび上がる。

しかも「かつての高卒採用は製造業の作業員や小売店員などが定番だったが、ここ数年で営業職やエンジニア職の求人が着実に増えている」と、ジンジブの佐々木社長は指摘する。

盛り上がりを見せる高卒採用。ただ、大卒にはない事情も課題も浮かび上がってきた。

高校が生徒の就職活動に深く関わる「1人1社制」と呼ばれる採用選考ルールがそれだ。高卒採用では企業の求人に対し、生徒が学校からの推薦を受けて応募できるのは1社だけ。大卒のように複数企業を併願して同時に選考に進むことはできない。選考に落ちた場合に次の志望企業に応募し、受かれば就職活動はそこで終了することになる。1950年代から、経済団体と学校側、国の3者による申し合わせで続いてきた。未成年である高校生の就活には成人である大学生とは異なるルールが必要で、生徒の負担を少なくすることなどが背景にあった慣習だが、「生徒の選択肢を狭めている」との指摘も出ている。

高校にもよって異なるが、進路指導の教師には年間数千社規模の求人案内資料が殺到するところもあるという。「その中から高校生が本当に希望する就職先を選び出すのは至難の業だ」とジンジブの佐々木社長は指摘する。少子化で高校生の数が減少傾向となる一方で、大卒から高卒に採用対象をシフトする動きが加速したことで、そうした議論に拍車をかけている。売り手市場の波が大学卒から高卒まで広がる中、当の高校生と企業側、学校側の「三方よし」の新たな仕組みが求められている。

(日経ビジネス 高槻芳)

[日経ビジネス電子版 2020年2月4日の記事を再構成]

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