ベルリン2冠「37セカンズ」 障害ある女性、等身大で
文化の風

関西タイムライン
2020/2/7 2:01
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主演の佳山は一般からオーディションで選ばれた(C)37 Seconds film partners

主演の佳山は一般からオーディションで選ばれた(C)37 Seconds film partners

2019年のベルリン国際映画祭で2つの賞を受けた映画「37セカンズ」が、7日から公開される。脳性まひの主人公を演じるのは、大阪出身で同じ障害を抱える佳山明(めい)。同じく大阪出身で、今作が長編初監督のHIKARIが、説教臭さや重苦しさのないポジティブな成長物語に仕上げた。

■2週間生活共に

佳山が演じるユマは、出生時に37秒間呼吸ができなかったため身体に障害を抱える女性。少女漫画のゴーストライターとして働くが、自らの作品として評価されないことに歯がゆさを感じ、過保護な母親にもいらだちを覚え始める。

新たな創作分野として目をつけたのがアダルト漫画。しかし編集者からは、描写が真に迫っていないと指摘されてしまう。リアルな描写を追求するために夜の街に足を踏み入れ、奔放な障害者らと出会い、様々な経験をする中で自由と自立を手に入れていく。

HIKARIは障害者やその家族らに話を聞き、脚本を膨らませた。映画づくりのきっかけは、障害者の性に関する支援活動に取り組み、今作にも出演する熊篠慶彦と出会ったこと。「主人公は車椅子に乗っているが、一人の人間として成長する中でいろんなことを発見していく。障害者であってもなくても通じるストーリー」を目指した。

監督のHIKARI(右)と、主役を演じた佳山

監督のHIKARI(右)と、主役を演じた佳山

HIKARI自身の人生も重ね合わせる。幼いころから合唱団に所属し、ミュージカルなどの舞台に立った。しかし小中学校でいじめに遭い、所属する劇団の大人からは「絶対成功しない」と言われた。「とっとと外に出て、新しい世界を見てやろう」と10代で渡米。女優やカメラマンなどに挑戦し、映画の道に行き着いた。「人生は思い通りにはならないけど、経験を重ねる中で道が枝分かれしていく」と実感を込め語る。

リアルさに徹底してこだわった。障害者が登場する劇映画は珍しくないが、実際に障害者が演じることは多くない。「ウソはつきたくないし、中途半端なことで障害者に対し失礼になることもやりたくなかった」とHIKARI。車椅子の女性にオーディションを重ね、佳山を見いだした。

ドラマ好きで、表現することにも興味があったという佳山。小学生のころには朗読コンクールにも出場した。演技経験はなかったが「(新しく)何か見えてくることがあったら」と考えオーディションに挑んだ。

HIKARIは「彼女のピュアさにひかれたし、演技をしたことがないからこそ、構えずに反応を返してくれるところが良かった」と振り返る。佳山を選抜後、2週間ほど生活を共にし、双子の姉がいることなど現実をストーリーに盛り込んでいった。

■経験「私だから」

「私でよかった」――。主人公が障害のある自分を前向きに語るヤマ場のせりふを巡っては、撮影前に佳山らと2時間ほど意見を交わしたという。HIKARIは「健常者の私が書いた脚本なので、明ちゃんと(役の)ユマちゃんが言える言葉は何か、ずっと考えていた」と話す。言葉の選択肢を示しつつ、最後は演じる佳山の感情に任せた。

「障害のあるなしにかかわらず重い言葉で、すごく悩んだ」と明かす佳山。「物事は一面的ではないし、(障害も)マイナスばかりではない。私だからできた経験もある」と、演技への挑戦を振り返る。HIKARIは「明ちゃんという女性が周りに支えられて映画を作った初めての経験が、ユマの成長として映像に反映されている」と自信をみせる。ベルリン映画祭ではパノラマ部門の観客賞と国際アートシネマ連盟賞を受賞。「若い人や、人生どうしようかと迷っている人に見てもらいたい」

(西原幹喜)

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