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継承すべき金田さんの「ファン第一」とサービス精神
編集委員 篠山正幸

2020/2/4 3:00
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「我々、残された者が継承し、伝えていかなくてはならない」。1月21日に行われた400勝投手、金田正一さん(国鉄=現ヤクルト―巨人)のお別れの会の席に参列し、追悼の言葉を贈った巨人・原辰徳監督は、金田さんの教えを守り、伝えることを改めて誓った。プロ野球の今後のために、その教えに学ぶべきことは少なくないようだ。

サービス精神の塊だった金田さん。その愛情は太陽の光のように、あまねくふりそそがれ、球団の枠など関係なかった。

大魔神こと佐々木主浩さん(当時横浜=現DeNA)らが、米ハワイでサンダル履きで歩いていたところにバッタリ出くわした金田さんは「そんなかっこうでつまずいて、足を痛めたらどうする」と、すかさず注意したという。野球をする者はだれでも仲間。仲間がつまらないことで故障をして、才能を無にするようなことに金田さんは耐えられない思いだったのだろう。

巨人OBの黒江透修さんは「一晩の食事に2万円かけているんだ、と言っていた」と回顧する。

金田さんのキャンプといえば「金田鍋」。宿舎の食事ではあきたらず、自分で食材を調達して、魚介、肉、野菜を盛り込んだ鍋を作り、仲間にも振る舞った。国鉄時代はもちろん、巨人でもそのスタイルは変わらなかった。

ご子息の賢一さんによると、キャンプの準備は単身赴任の引っ越しをするようだった。旅館の布団は小さくて脚が出てしまうので、特注して新調し、鍋釜を携えた。現場で作る総菜だけでは足りないので、キャンプ前に「家族総出で、ご飯のおかずとか酒のつまみになるようなものだとかを作った懐かしい記憶がある」。

金田さんが残した言葉によると「食事はみんなで食べるから身になるんだ」とのことで、国鉄でも巨人でも、多くの仲間がともに食べ、ともに体を作った。

これは金田さんの旺盛なサービス精神の一端にすぎない。金田さんがもっとも心を砕いたのはファンへのサービスだった。その最たるものがロッテの監督時代、稲尾和久さん率いる太平洋クラブライオンズ(西鉄の後継で西武の前身)との間で画策した、ほとんど禁じ手の秘策だった。

1973年、ロッテの監督に就任した金田さんは「いっちょう、パ・リーグを盛り上げようじゃないか。まずオレから仕掛けるからな」と稲尾さんに持ちかけた。キャンプ、オープン戦を通じて監督同士が舌戦を交わして「遺恨」を演出し、ファンをたきつけようというのだった。

ロッテの本拠地である川崎球場、太平洋の本拠地の福岡・平和台球場を含め、パ・リーグはどこも不入りだった。どんなことをしてでもファンを喜ばせ、窮状を打開せねば、という思いのあまりの奇策だった。

作戦は当たった。いや、当たりすぎた。ロッテが、ホームの川崎で太平洋に負けると、荒れたファンが椅子を壊す。平和台で太平洋がぶざまな試合をすると、ファンがロッテの選手を取り囲み、機動隊の装甲車の助けを得て球場を脱出する、という騒ぎになる。

一連の騒動は本塁のクロスプレーを巡って起こった乱闘のなかで、金田監督自身が太平洋のドン・ビュフォード選手にヘッドロックをかけられるという"事件"に至って、制御不能となっていく。

この話を美談にするわけにはいかないが、伝えなくてはいけないのは、どんな手段を使ってでも盛り上げたいという金田さんの気持ちだ。また、球界のレジェンドをそこまで思い詰めさせるほど、苦しい時代がプロ野球にもあった、という事実だ。

「金田さんは自分のパフォーマンス、自分の技術というものはもちろんだが、ファンのみなさんのことをすごく意識された。自分のプレーによってファンが喜ぶ、ファンあってのプロ野球選手だ、と常々言われていた。感謝することが大事だ、と」と、お別れの会のあとで記者団に囲まれた原監督は語った。

お別れの会で弔辞を述べる巨人・原監督=共同

お別れの会で弔辞を述べる巨人・原監督=共同

今、プロ野球はパ・リーグの観客動員の伸びもあり、安泰なようにもみえるが、ファンあってのプロ野球ということを忘れたら、暗い時代に逆戻りするのにそう時間はかからないだろう。

今では少なくなったけれども、球団のお仕着せのサイン会で、ファンの顔もみずに機械的にサインをする選手もいたし、毎度木で鼻をくくったようなコメントをする選手もいる。選手の究極のサービスはいいプレーをみせることだから、口下手でも構わないが、金田さんが抱いていた「ファン第一」の気持ちがあるのかどうか。問われるのはそこだ。

金田さんの遺志を継承するという原監督の心意気は頼もしく、次の世代にも受け継がれることを祈りたい。

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