IBM、クラウド重視布陣 CEOにインド出身者

2020/1/31 22:00
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クリシュナ次期CEO(左)とホワイトハースト次期社長

クリシュナ次期CEO(左)とホワイトハースト次期社長

米IBMが8年ぶりのトップ交代に踏み切る。バージニア・ロメッティ最高経営責任者(CEO、62)が4月に退任し、後任にクラウド担当のアービンド・クリシュナ上級副社長(57)が就くと30日に発表した。20世紀の「IT(情報技術)の巨人」は近年は停滞気味。市場は急成長する一方、同社が出遅れているクラウド事業を重視した布陣で浮上を目指すが、課題は多い。

次期CEOに内定したクリシュナ氏はインド出身で1990年にIBMに入社した。2018年に発表した米ソフト大手のレッドハットの買収が最大の功績。340億ドル(約3兆7千億円)を投じ、IBM史上最大のM&A(合併・買収)となった。人工知能(AI)や量子コンピューターを扱う研究部門も率いる。

人事のもう一つのポイントは、ロメッティCEOが兼務していた社長職にレッドハットのトップであるジェームス・ホワイトハースト氏(52)が就くことだ。レッドハットはクラウド向けソフトや管理に強みを持つ。クラウドと技術に明るいコンビへのバトンタッチを株式市場は好感し、同社の株価は30日の時間外取引で5%近く上昇した。

マイクロソフトやアルファベットといった米国の西海岸を本拠とするIT企業では、優秀なIT人材が豊富なインド出身者のCEO就任や、買収した企業からの幹部登用は珍しくない。ただ、1911年にニューヨークで生まれたIBMは保守的とされる東部の代表的な企業。元社員は「かなり思い切った人事だ」と驚く。裏を返せば、それだけ同社が追い込まれているともいえる。

業績の浮き沈みの大きいIT企業にあってIBMも例外ではない。90年代に経営危機に陥り、コンサルティング会社出身のルイス・ガースナー氏をCEOに起用。ハード偏重だった同社はサービスに事業の軸足を移し、高収益企業となった。

ガースナー氏以降も、ITを活用して企業の経営改善を後押しする事業に注力する基本戦略は同じだ。03年にハードディスク駆動装置(HDD)事業を売却し、05年には「シンクパッド」のブランドでファンも多かったパソコン(PC)事業を売った。12年に就任したロメッティCEOもPCサーバー事業を切り離し、クラウドやAIに注力してきたが、事業構造の転換は難航している。

12年に1045億ドル(約11兆4千億円)あった売上高は19年に771億ドルと、26%減った。この期間に純利益も43%減少。ロメッティ氏が就任した12年1月1日から19年末までに株価は28%下落し、17年には長期株主のウォーレン・バフェット氏も保有するIBM株の大半を手放した。

クラウド関連事業は19年10~12月期の売上高が前年同期比21%増の68億ドルだったが、米アマゾン・ドット・コムなどと比べると存在感はない。要因の一つはIBMが大型コンピューターのメインフレーム事業を手掛けていることだ。クラウドが広がれば、従来のシステムを含めて販売機会が減り、既存事業とのカニバリゼーション(共食い)が起きる。

マイクロソフトやアマゾンがクラウドに一気に経営資源を振り向けるなか、どっちつかずのIBMはクラウドサービスの世界シェアでわずか数%にとどまる。12年時点では2200億ドル台で拮抗していたマイクロソフトとの時価総額の差は今では10倍以上に広がった。

米調査会社によると、19年に米国内で申請した特許数でIBMは27年連続で首位だった。AIでは「ワトソン」と名付けたシステムを早くから展開するが、広くは普及していない。戦略は間違っていなくても、従来のハードやシステム売りにも気を使う覚悟のなさが、ロメッティ氏の8年の停滞を生む背景となった。

「クラウド市場が急拡大する半面でIBMはシェアを落とし続けてきた」。アナリストの評価も厳しい。19年には最大100億ドルに上る米国防総省のクラウド案件「JEDI」の入札でマイクロソフトとアマゾンが競るなか、「IBMは要求する仕様を満たせなかった」と、早々に脱落した。

買収したソフト企業のCEOまで首脳に登用するトップ人事で、今度こそ本当にクラウド重視を貫けるか。ガースナー氏が同社の改革過程を記した著書のタイトルは「巨象も踊る」だった。「踊れない巨象」となった同社を変えるという難題に新経営陣は挑む。

(シリコンバレー=佐藤浩実)

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