[社説]遅すぎた新型肺炎の「緊急事態宣言」
世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「緊急事態」を宣言した。しかし、感染者はすでに世界15カ国以上に広がり、人から人への感染も相次いでいる。判断が遅すぎたのではないか。感染者がさらに増える前提での対策が必要だ。

WHOは声明で中国の対策をたたえ、テドロス事務局長は「他国も中国を見習うべきだ」とも述べたが首をかしげざるを得ない。1月22~23日の緊急委員会で宣言を見送って以来、事態は悪化の一途をたどっている。
2002~03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際に、中国は情報隠しを批判された。当時に比べ国際協調を重視しているが、旧正月の休暇前に出国した多数の渡航者が各国で感染源になったのは事実である。
感染症対策は初動対応が重要だ。中国は全ての情報を早急に開示し各国と共有すべきだ。過去の教訓を生かさずに、繰り返す感染症の脅威には立ち向かえない。
WHOは渡航制限を勧めないとの見解も示した。緊急委員会の委員長は自国民を呼び戻す動きに疑問を呈したが、こうした措置の是非は各国政府がそれぞれの実情に応じて判断すべきだ。
日本が緊急事態宣言を待たずに新型コロナウイルス感染を「指定感染症」としたのは評価できる。武漢から希望者をチャーター機で日本に運び、入国時に全員を検査すると決めたのも妥当だ。
一方、国内で発熱やせきなどの症状がない人からも、ウイルスが検出されたのは心配だ。症状がある人だけを検査して感染者を特定してきたが、それだけでは不十分ということになる。
かといって、中国からの全渡航者にウイルス検査をするのは無理がある。一定期間、健康状態に注意して少しの異常でも申し出てもらい、希望者はいつでも検査を受けられるようにしたい。簡易な検査機器などの開発が急がれる。
今後も感染者は増え続ける公算が大きい。国内で生命に危険が及んだ例はないが、政府はどこでも適切な治療が受けられるよう医療機関に協力を求め、重症化防止に全力をあげてほしい。
各国でワクチンや治療薬を開発する動きもある。市場規模や流行がいつまで続くかが見通せず、製薬企業は思い切った投資がしづらい。政府も後押しして、国際共同開発などを推進すべきだ。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行しました。関連ニュースをこちらでまとめてお読みいただけます。
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