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心をつかむ魔法の動き いいむろなおきさんのパントマイム

匠と巧

かばんが浮くマイムを演じるいいむろさん=小幡真帆撮影

何もないはずの空間に壁がある? かばんが空間の一点に固定されて動かないと思ったら、自分の意思で飛んでいこうとしている? 兵庫県尼崎市を拠点とするマイム俳優、いいむろなおき。魔法のような技術を使って様々な舞台で活躍している。

関西生まれ、おフランス育ち――。いいむろは自身をそう形容する。「劇場のお客さんは緊張していたり、構えていたりする。そこで関西、特に大阪の文化が大事にする笑いの要素で(観客の心の)ガードを下げると、コミュニケーションがとれるようになる」

いいむろの作品の一幕。帽子をかぶろうと頭に帽子を持ってくるのに、何回やっても帽子が逃げだして、なかなかかぶれない。生きているかのように逃げる帽子と、困惑する男。おかしなこと、どこか不条理なものに巻き込まれ、翻弄されて困ってしまっている人。いいむろはそうした笑いを好み、しばしば作品内に登場させる。

セリフのないマイム作品は観客が記憶や想像力で余白を埋めることで完成する。演者と観客のコミュニケーションがなければ成立しない表現だ。関西の笑いの文化は、いいむろの舞台を支える大切な要素になっている。

人形劇団を主宰する両親の下で育ったいいむろは、高校生の時に「マイムの神様」マルセル・マルソーの舞台を見て衝撃を受け翌日からフランス語の勉強を開始。19歳で渡仏しマルソーの下で学んだ「おフランス育ち」。日本に拠点を移してからは自身のカンパニーを率いて作品を発表するほか、多数の舞台作品に参加。「文化のオリンピック」と呼ばれる世界デルフィック大会の金メダルといった実績も残してきた。

マイム表現の核となるのが身体を思うままに操る技術。これは「単純に練習量に比例する」(いいむろ)。人間離れした表現を可能にする筋力や柔軟性に加え、随意筋すべてをコントロールできるように、他の部位は固定したまま首だけ動かすといったように、動きを一つ一つ分解して自由に操る訓練をする。

空間に壁があるように触る技なら「27本ある手の骨すべてを使うような意識で動かせるようになる」(同)。「歩く」という一つの動きも自然な日常の歩き方から、重力のない宇宙での歩行、0.1秒単位のスローモーションまで、自由に行き来できるようになる。

日本では大道芸の印象が強いマイムだが、いいむろは人間の内面や物語といったものを表現する豊かな作品世界を目指している。2018年の作品では、オリンピックの歴史を追いながらオリンピック精神の原点をマイムで表現した。

マイムのほかジャグリングやマジックなども組み合わせたセリフのないノンバーバル演劇「ギア」にも主要キャストの一人として参加。京都で8年にわたるロングランを記録している同作で訪日外国人を含め20万人以上を動員するなど、活躍の場はますます広がっている。

(佐藤洋輔)

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