ウォルマートのアマゾン対抗策、ラストワンマイルへ

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コラム(テクノロジー)
2020/2/3 2:00
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ウォルマートはネット通販への投資に力を入れている

ウォルマートはネット通販への投資に力を入れている

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 米ウォルマートがネット通販への投資に力を入れている。アマゾン・ドット・コム対抗策として2010年代半ばから進めているが、ここにきて重視し始めたのが自宅に商品を届ける「ラストワンマイル」戦略だ。その一環で最近もスマートフォンでドアを解錠できる「スマートロック」のスタートアップ企業に出資した。ただ、この分野に目を付けるのは同社だけではなく、新興企業が続々と生まれている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ウォルマートはこのほど、スマートロックのスタートアップ企業、米レベルホーム(Level Home)に出資した。レベルホームは2019年10月のシリーズAで7100万ドル以上を調達した。

ウォルマートは19年10月中旬に米国の3都市で生鮮食品を顧客の冷蔵庫にまで届けるサービス「インホーム(InHome)」を始めており、この事業でレベルホームのテクノロジーを活用する。

両社の関係はプラットフォーム企業とツール企業が手を組んで消費者が求める利便性を向上させる重要性を示している。ウォルマートからの出資により、レベルホームは競争の激しいスマートロックの分野で優位に立つことにもなる。

■3つのポイント

(1)ウォルマートは生鮮食品のネット通販の利便性を差別化するため、今後もこの分野を強化するだろう。同社は売り上げの3分の2を消費財が占める。ネットで注文した生鮮食品を店頭で受け取るサービスや、自宅に配達するサービスを導入している同社の米店舗は19年末時点でそれぞれ3100店、1600店と採算ラインに達したばかりで、生鮮食品のネット通販の競争も激しくなっている。このため、ウォルマートは引き続きこのサービスの使い勝手を良くする必要があるだろう。

(2)「利便性」も転換点を迎える可能性がある。ウォルマートが17年に米シリコンバレーで試験的に始めたインホームのサービスを拡大したのは、消費者にある程度受け入れられたことを示している。一方、他の小売りや配送パートナーは買い物客がスピードと手軽さをどこまで求めるかの指標として、この配達形態の採用がどれほど進むかに注目すべきだ。

(3)差別化の取り組みにより、小売り各社による生鮮食品のネット通販やスマートホームのイノベーション(技術革新)は進展するだろう。ウォルマートとレベルホームの関係は、手軽さや利便性に対する消費者の感覚を高めなくてはならないという提携の価値を浮き彫りにしている。

出所:ウォルマート

出所:ウォルマート

ウォルマートなど小売り各社にとっては、今回のレベルホームへの出資で顧客体験を迅速に進化させるにはテクノロジーを活用する必要があることが改めて確認された。

同時に、住宅内への配達サービスの長期の持続性についてはなお議論の余地がある。調査会社モーニング・コンサルトが17年後半(ウォルマートの試験サービスが始まり、アマゾンが家の中に配達するサービス「アマゾンキー」を発表したころ)に実施した調査では、配達員を家の中に入れることを不快に感じる米国の成人は3分の2に上った。こうした意見が軟化するかは時間がたてば分かるだろう。

この配達形態がウォルマートや競合他社にすぐに利益をもたらすかどうかも定かではない。競争の激しいラストワンマイルの配送市場では、実際の収益以上にメディアの注目を集めているサービスはかなりあるからだ。

賢明なオムニチャネル(ネットと実店舗の融合)の小売企業は、やがて投資や企業買収を自社の戦略的目標に合わせてじっくり検討するようになる。ウォルマートの場合には、生鮮食品の宅配で利便性を実現するのが戦略的目標だ。

一方、スマートホーム各社にとって、今回の提携は自社製品が住宅や他の住宅関連テクノロジーとどう連携するかを示す明らかなチャンスになる。レベルホームは従来のドア錠をネットにつながる「コネクテッドロック」にしたことで知られるが、この分野に競争がないわけではない。ウォルマートとの関係は混戦から抜け出すチャンスになるかもしれない。

■生鮮食品の宅配にとどまらない配送

小売り各社はいわゆるラストワンマイル配送のスピードと利便性の向上に取り組んでいる。住宅内への配達は最新のサービスにすぎない。

アマゾンは利便性のスタンダードを確立しつつあるが、住宅内への配達は配送の柔軟性を高める同社の多くの武器の一つにすぎない。同社が持つ数千件に上る特許には、ドローン(小型無人機)、ドローン配送の衝撃を緩和する器具、自動配送ロボット、買い物客がいる場所に配達する技術など、宅配やそれをはるかに超える枠組みを変えようとする様々な取り組みがある。

もちろん、アマゾンも住宅内への配達サービスを手がけている。「アマゾンキー」アプリを使えば、住宅やガレージ、車の中に注文した品を配達してもらえる。住宅内とガレージへのサービスはアマゾンの音声認識AI(人工知能)「アレクサ」、ホームセキュリティーカメラ「クラウドカム」、スマート機器「リング」、「信頼性の高いスマートロックキット『キー』」に対応している。車内への配達はシボレー、フォード、ホンダなどのモデルで可能だ。もっとも、アマゾンのこのサービスでは生鮮食品は対象外であり、生鮮食品はウォルマートのインホームでしか取り扱っていない。

スマートロックメーカーの米オーガスト・ホームも住宅内への配達を手がける企業と提携している。同社はラストワンマイル配送のスタートアップ、米デリブ(Deliv)と提携し、オーガストの鍵を使っている顧客にデリブの提携小売店(米百貨店大手メーシーズや米家電量販店大手ベストバイなど)やサービスプロバイダーの商品を配達する際、住宅内への配達を選択できるサービスを提供している。

従来型の鍵をコネクテッドロックにする装置を提供しているのはレベルホームだけではない。オーガスト・ホームに加え、米イェール(Yale、オーガストと同じくスウェーデンの鍵・ドア大手アッサ・アブロイを親会社に持つ)や米クイックセット(Kwikset)など様々な新旧の企業が同様の製品を手がけている。

■ライバルは未来にフィットする玄関ドア

スマートロックの分野では、スタートアップに何社かライバルがいる。

・米ラッチ(Latch)

▽資金調達額(公表ベース、以下同):1億4700万ドル
▽主な投資家:米プライマリー・ベンチャー・パートナーズ、米サード・プライム、米ラックス・キャピタル、米キャンバー・クリーク
 ラッチは集合住宅向けのスマートロックを手がける。米物流大手UPSと提携し、十数の都市でUPSの配達員が荷物を敷地内に配達できるサービスを提供している。ラッチはウォルマート傘下のネット通販「ジェット・ドット・コム」とも組み、ニューヨーク市のマンションのビルの敷地内に荷物を配達できるようにしている。


・米ゲートラボ(Gate Labs)

▽調達額:1300万ドル
▽主な投資家:米コタ・キャピタル
 ゲートラボのスマートロックはカメラを内蔵しており、利用者はライブストリーミング映像で(玄関の周囲の状況を)確認できる。同社は過去の映像を確認したり、登録者を増やしたりできるプランも提供している。


・キャンディハウス(Candy House)

▽調達額:250万ドル
▽主な投資家:米アミノ・キャピタル、米キックスターターとマクアケでのクラウドファンディング
 米カリフォルニア州パロアルトと東京に拠点を置くキャンディハウスは、既存のドアやドア錠にはがせる接着剤で貼り付けるスマートロック「セサミ」を手がけている。利用者は家族や友人などとカギをシェアしたり、グーグルの音声AI「グーグルアシスタント」やアップルの「シリ」、アレクサを搭載したスマート機器や「イフト(IFTTT)」(様々なネットサービスを相互に連携できるサービス)などと連携したりできる。


・キーミット(Keymitt)

▽主な投資家:独FATHグループ
 ルクセンブルクに拠点を置くキーミットは既存のドア錠に対応し、グーグルアシスタントやアレクサ、ホームキット、イフトと連携できるスマートロックを手がける。エアビーアンドビー、ブッキング・ドット・コム、ホームアウェイなどの民泊システムでも利用できる。キーミットのスマートロックは先行予約を受け付けている。

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