大阪・あいりん、半世紀の歩み 総合センター建て替え
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大阪
関西
2020/1/30 2:01
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建て替えに向け、医療センター以外はすでに閉鎖されたあいりん総合センター

建て替えに向け、医療センター以外はすでに閉鎖されたあいりん総合センター

日本最大の日雇い労働市場がある大阪市西成区のあいりん地区(通称釜ケ崎)。労働施設や病院、市営住宅が集まり地区のシンボルだった「あいりん総合センター」が半世紀ぶりに建て替えられる。仕事を求める労働者のよりどころだったセンターには、悪徳手配師と労働者支援団体の闘争や暴動、バブル景気の活況と崩壊後の労働者の苦境、そして高齢化など、地区の歴史が染みついている。

センターは1、3階が求人側の手配師と労働者が相対で交渉する「寄り場」(寄せ場)。3、4階に日雇い労働市場の管理や監督をする西成労働福祉センター、職業安定所、5~13階は労働者を無料・低額で診療する病院と市営住宅が入居していたが、耐震性が弱く建て替えが決まった。

■高度成長で求人

「まだ南海電車の西側にあった露天の寄せ場は手配師のトラックやバスでごった返し、屋台ではバケツで皿を洗っていた」。1970年6月、万国博覧会や千里ニュータウンの開発で求人が殺到するあいりん地区にやってきた水野阿修羅(あしゅら)さん(71)。4カ月後にオープンしたあいりん総合センターには「屋台から転じた食堂が入り、トイレも水飲み場もあって労働者のよりどころになった」と振り返る。

当時は暴力手配師が横行。水野さんら地区に拠点を置く労働組合は求人を牛耳る暴力団と対抗して追放するなど、労働者の権利拡大へ闘った。「仕事は新日鉄や日立造船の工場、千里や泉北ニュータウンの道路工事、その後は鉄筋工。センターでは『仕事行こう、仕事行こう』と手配師の声が響いていた」と語る。

第一次石油危機の影響で戦後初めてマイナス成長に陥った74年末、大学4回生だったありむら潜さん(68)は就職活動で西成労働福祉センターを訪れ、足の踏み場もないほど労働者が寝転んでいるのに度肝を抜かれた。センターの職員は「よく来てくれた」と両手でありむらさんの手を握ったという。「釜ケ崎は社会の矛盾が最も集まる場所。職員として働きながら、様々な人生を歩んできた労働者を漫画『カマやん』で描き始めた」。退職後も「釜ケ崎のまち再生フォーラム」事務局長や漫画家として関わり続けている。

ありむら潜さんが描いた1980年代のセンター周辺。バブル期で、手配側の車があふれていた

ありむら潜さんが描いた1980年代のセンター周辺。バブル期で、手配側の車があふれていた

西成労働福祉センターの松井環総務課長が就職した80年代末はバブル経済の絶頂期。仕事は引く手あまたで、あちこちで酒盛りが開かれていたが、バブル崩壊で数年後には野宿する人が続出した。「技能があっても55歳以上の労働者は一律に切られた」

■弱者助ける街に

社会の変化の風がもろに吹き付けるのが釜ケ崎だ。50年代まではドヤ(簡易宿泊所)とバラック住宅が立ち並び子供がいる家族も多かったが、万博景気などで農村や炭鉱から労働者が流入し「単身・男性・建設日雇い」の街に変貌した。バブル崩壊後は仕事が激減し、21世紀に入ると手配師は若い労働者に携帯電話を持たせて仕事を直接依頼するようになった。取り残されたのは高齢労働者だ。

99年ごろから行政、NPO、ボランティア団体などが彼らの支援に動き、町内会も含めて連携する動きが出てきた。高齢労働者を街の清掃などに雇用する「特別清掃事業」など、様々な支援策も実現していった。

あいりんには近年、年金生活の単身者らが流入している。家賃や物価の安さに加え、様々な社会支援団体が存在し支援策もある「サービスハブ」として、生活弱者が住みやすいようだ。

「多様な人が余白をみつけて居場所にしてきたのがこの街」。留学先の英国でホームレス問題に着目した関西大学4回生の中野愛莉さんは労働者らに話を聞き、あいりん総合センターの新しい姿を自主的に考案して2月にゼミで発表し関係者にも示す考え。「何にも縛られない釜ケ崎の寛容性を取り込みたい」と話す。

医療センターが移転すれば今秋以降に建物の解体が始まり、25年には完成の予定だ。旧センターは国、大阪府・市で計画を決めたが、新しいセンターは町会や労働者支援団体なども加わって計画を固める。労働施設を中心に、にぎわいの機能が加わる見通し。サービスハブ機能の充実も求められる。

あいりんの労働者は万博会場やニュータウンなどの建設に低賃金で従事し日本の高度成長を縁の下で支えてきた。ありむらさんは「総合センターは血と汗と涙の労働遺産。デジタルアーカイブも含めて後世に伝えていくべきだ」と訴える。

(編集委員 宮内禎一)

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