カンボジア縫製業に広がる不安 EU、2月に優遇関税継続の是非判断

アジアBiz
2020/1/28 18:13
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【ハノイ=大西智也】欧州連合(EU)が野党弾圧を理由にカンボジアのフン・セン政権への経済制裁を検討していることに、進出企業や労働者が不安を募らせている。制裁の内容は優遇関税の撤廃で、実施されれば輸出の7割を支える縫製業には大きな打撃となる。EUは2月11日ごろまでに是非を判断する構えで、政権は野党指導者への締め付けを緩める姿勢も見せ始めた。

トラックの荷台に乗って通勤する縫製工場の労働者(プノンペン)

首都プノンペン郊外で数百の縫製工場が軒を連ねるベンスレン通り。早朝に大勢の若い女性たちが古いトラックの荷台に乗り、職場に入っていく。工場の門の付近には軽食の屋台や雑貨店がひしめき、産業の裾野の広さがうかがえる。

縫製工場で働く人たちの多くは20~30代の女性だ。手にするのは月190ドル(約2万1000円)の最低賃金とわずかな残業手当だ。中国系の工場で働く女性(31)は「月収は運転手の夫と合わせて400ドル程度。子供が1人おり、生活はとても苦しい」と話す。

カンボジアの主力産業は衣服などを作る縫製業で、総輸出の約7割を占める。同業では70万~80万人が働き、正規労働者の半分を占める。

雇用を支えるのはEUがカンボジアに与える優遇関税の制度だ。武器以外の全品目を無関税でEUに輸出できる「EBA協定」を2001年から適用。同協定により、カンボジアのEUへの輸出額は過去約20年で10倍に増えた。

スペインの「ZARA(ザラ)」、スウェーデンの「H&M」、米小売りのウォルマートなどは主に欧州向け輸出のため、カンボジアの工場に生産を委託する。カンボジアの1人当たり国内総生産は約1500ドルで、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国で2番目に低いが、人件費の低さを活用し輸出競争力を高めてきた。

しかし、ここに来て欧州とあつれきが生じている。EUが問題視するのは30年以上、首相を務めるフン・セン氏の野党弾圧だ。同氏の影響下にあるカンボジアの裁判所は17年、当時の最大野党だったカンボジア救国党の解党を命じた。その後の国政選挙でフン・セン氏の与党は圧勝し続けてきた。

EUは19年2月11日に制裁の検討に着手し、執行機関である欧州委員会は「1年以内に結論を出す」と表明しており、その期限が迫る。アイルランドの格安衣料品チェーン「プライマーク」の幹部はロイター通信に「(優遇関税がなくなれば)欧州企業は(カンボジアでの)生産を取りやめるだろう」と話す。

労働組合のカンボジア労働者運動集団連盟のパウ・シナ代表は、EUが制裁を発動して縫製業の仕事が減れば「多くの労働者の生活が困窮する」と危機感を強める。

縫製業の労働者はフン・セン氏の強力な支持基盤でもある。同氏は頻繁に工場へ出向いて労働者と交流してきた。ここにきて制裁回避のため、野党への圧力を弱める姿勢をみせ、19年11月には国家反逆罪に問われた救国党の元党首、ケム・ソカ氏の自宅軟禁措置を解除した。

米国は現時点でこの問題に関してカンボジアに厳しい姿勢をみせていない。トランプ米大統領は19年11月、フン・セン氏に「カンボジアの主権を尊重し、政権交代を求めていない」という書簡を送った。カンボジアはASEAN諸国の中でも中国との経済関係が特に強い。欧州や米国が距離を置くと、中国への傾斜を一段と強める可能性もある。

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