新型肺炎、治療法の開発急ぐ 既存薬で対応も

中国・武漢を中心に流行する新型肺炎の感染拡大が続いている。28日までに中国での感染者数は4000人超、死者数は100人を超えた。感染源やウイルスの特徴を巡ってはいくつか報告も出ているが、明確になるまでは至っていない。効果があるとみて既存薬を投与する動きがでてきたが、治療法の開発は途上で、解明に向けた国際協調も求められる。
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中国メディアによると、感染者数は先週末に1000人を超えた後、ここ数日で急増している。長崎大学の安田二朗教授は「感染力は(2012年に流行した)MERS(中東呼吸器症候群)よりは高く、重症急性呼吸器症候群(SARS)並みと考えられる」と指摘する。接触感染だけでなく飛沫感染もあると考えるのが妥当だという。
ウイルスは一般に、感染力と致死率からリスクをとらえる。感染力については、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが25日、今回のウイルスは1人の患者から平均2.6人の患者にうつっていると報告した。
国立感染症研究所などによると、空気感染するはしかは患者1人から12~18人にうつる。風疹が5~7人、インフルエンザが2~3人という。03年に感染が広がったSARSは欧米のチームが2~5人と報告している。
今回の新型肺炎の致死率は現状では3%程度で、流行当初から特に変わっていない。MERSの約34%、SARSの約10%と比べれば低い。
流行拡大に伴ってウイルスが変異することを心配する声も上がる。だが、現状ではウイルスが新たに変異して感染力や病原性が変わったとする明確な証拠はない。
新型肺炎のウイルスはSARSやMERSのウイルスと同じ「コロナウイルス」というグループに属する。インフルエンザウイルスに比べると変異しにくいのが特徴だ。
ウイルスの変異はランダムに起こるため、病状や感染力そのものの変化は頻繁には起こりにくい。ただ、人への感染に適したウイルスが誕生すれば、人から人への感染が大規模に起こる可能性もあるので注意は必要だ。
患者の病状に関する詳細な報告は出てきた。中国や米国の研究チームは24日、英医学誌ランセットに流行初期の患者41人の分析結果を発表した。ほぼ全ての症例で発熱がある一方、呼吸困難の症状は半数あまりの患者でしかみられなかった。
治療法の確立につながる動きもでてきた。中国では、エイズの治療薬として既に実用化されている薬「リトナビル」や、ウイルス性肝炎の治療薬を使った臨床試験(治験)が承認された。現場で実施されている通常の治療方法と効果の違いを調べるとみられる。
対策が進む一方、感染源の動物はいまだに特定できていない。新たな発症者が出ない状況に押さえ込んだとしても、原因動物を駆除できなければ新たな流行が生まれることが想定される。

22日には北京大学などの研究チームが、遺伝情報の解析からウイルスの感染源がヘビであるとする報告をまとめた。ただ、他の専門家らは論文の証拠が不足しており、より人に近いほ乳類や鳥類からの感染の方が可能性が高いとみる。
東京農工大学の水谷哲也教授は「感染源を特定するには、実際に数十匹~100匹程度の動物を調べてウイルスの存在を確かめる必要がある」と指摘する。
ワクチン開発に向けて国際協調の動きも出てきた。ノルウェーや日本など7カ国と米ビル&メリンダ・ゲイツ財団などからなる「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が世界保健機関(WHO)などと連携し、新型ウイルスのワクチン開発に乗り出した。今夏に臨床試験を始める目標だという。日本からはCEPIに17年からの5年間で毎年2500万ドルを拠出している。
中国メディアによると、当初多数の感染者が出た武漢市内の海鮮市場から試料を採取し、中国疾病対策センターが解析したところ、複数のウイルスの陽性反応が出たという。感染源の特定にはより詳細な解析が待たれる。

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