米医療費高騰、大統領選の争点に
サービス価格 約12年ぶり伸び

2020/1/27 19:00
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【ニューヨーク=後藤達也、伴百江】米国で医療費高騰が大統領選の主要な争点の一つに浮上している。診療費などの上昇が止まらず、2019年末時点の医療関連のサービス価格の上昇率は約12年ぶりの高水準圏に達した。1人あたりの年間負担は1万ドル(約109万円)を超え、日欧の約2倍に達する。民主党の大統領候補らからは国民皆保険など公的負担の拡大論が相次ぐが、現状でも公的負担の膨張は続く。与野党の見解は激しくぶつかっている。

米国では医療費の負担が膨らんでいる(ジョージア州の病院)=ロイター

米国では医療費の負担が膨らんでいる(ジョージア州の病院)=ロイター

米労働省が発表した19年12月の消費者物価指数(CPI)によると、医療関係の項目である「医療ケア」の前年同月比の上昇率は4.6%と16年9月以来の上昇幅となった。なかでも診療行為など医療サービスの高騰が目立つ。上昇率は5.1%と19年10月以降、3カ月連続で5%を超え、08年1月(5.7%)以来、約12年ぶりの高さになっている。

医療費の高騰問題は格差是正とも絡み、11月の大統領選でも大きな争点だ。14日の民主党の大統領候補のテレビ討論会。左派のエリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員は皆保険の導入を主張した。中道のジョー・バイデン前副大統領やピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長は、公的保険と民間保険を組み合わせた医療制度の拡充を訴えた。

共和党のトランプ大統領は、オバマ前政権が全国民の保険加入をめざしたオバマケアが保険料の高騰を招いたと批判し、一部措置の廃止に取り組んできた。だがオバマケアの制度を代替する法案は成立せず、抜本的な改革は宙に浮いている。

医療費高騰の原因は複合的だ。米薬価は日本と異なり、医療サービス提供者の裁量で決めることができる。富裕層の需要が高まれば、薬価は上方に大きく振れやすい。感染症治療薬の「ダラプリム」、急性アレルギーの応急処置薬「エピペン」の値段は主要国の数十倍~数百倍だ。

病院のコスト増も医療サービス価格を押し上げる。人手不足に加え、医療保険のデータ処理や支払いで人件費やIT(情報技術)関連費用が膨らむ。ノースカロライナ州の私大デューク大学が運営する大規模病院では事務担当者(約1300人)がベッド(約900床)の数を上回る。

保険料の高騰も深刻だ。米非営利団体カイザー・ファミリー財団によれば、米雇用主が従業員向けに加入する民間医療保険料は19年に家族世帯で年2万ドルを突破した。診察費などの上昇に加え、オバマケアの導入で、健康ではない低所得者の保険加入が増え、保険料の高騰が加速した。従業員の保険の面倒を見切れない企業も増えている。

経済協力開発機構(OECD)によると、米国民が負担する年間医療費は1万586ドルと、日欧の2倍程度に上る。米エマーソン大学の世論調査では、大統領選で最も重視する争点で「医療」と答えた人は16%に上り、社会問題や銃規制、移民などを上回る。だが皆保険を巡っては財政負担の問題のほか、個人の自由を縛るとの見方もあり、世論は割れている。

■公的負担の膨張続く

米国にはすべての国民を対象にした公的な国民皆保険制度がなく、国民の負担が重くなりやすいとされてきた。だが現行の制度でも高齢化や医療技術の進歩から米政府の公的な負担も右肩上がりで膨らみ、財政悪化の大きな要因になっている。

米国の公的医療制度は高齢者向けの「メディケア」と低所得者向けの「メディケイド」が柱だ。多くの働き盛りの世代は民間保険に頼っている。

それでも公的支出は急増が続く。2つの制度に伴う政府の支出は最近10年でそれぞれ6割程度ずつ膨らみ、合計で1兆1700億ドル強(約130兆円)に達した。歳出に占める割合は27%に及ぶ。みずほ総合研究所の安井明彦欧米調査部長は「高齢化に加え、技術の進化で医療費が高騰している」と分析する。

米議会予算局(CBO)の予測によると2つの制度の政府負担は年5~7%程度で増え続け、2029会計年度には2兆2千億ドルと19年度の2倍弱に膨らむ。歳出に占める割合も3割を超える。政府も安易に大盤振る舞いできない構図にある。

みずほ総研の安井氏は「医療政策は民主党と共和党の意見の違いもあり、政治的なコンセンサスはつくりにくい」としたうえで、「今後も医療費負担は国と個人の双方で増加が見込まれる。米経済・財政でどう賄っていくのかを考えることが重要だ」と指摘する。

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