貴景勝1差キープ 突きの応酬、冷静に制す
いつにも増して荒々しい高安のかち上げが号砲となり、両者は火の出るような突きの応酬を繰り広げた。先に平幕の2人が1敗を守り、負ければ優勝争いから脱落するという瀬戸際で、目の前の元大関はプライドを懸けて向かってくる。激しい打撃戦に必死の形相で鼻血を流しながらも、貴景勝は平常心を保っていた。

「熱くなったのかなと思ったら意外と冷静に相撲を取っていた」と、土俵下の錦戸審判長(元関脇水戸泉)は感心する。猪突(ちょとつ)猛進のようでしっかり観察しているから、高安のはたきにも体が落ちない。逆に余裕なくバタバタと動き回る相手を常に正面に捉え続け、最後は後ろ向きにして押し出した。
高安や豪栄道らが続々とその座から転落し、来場所は一人大関となる見込み。故障に苦しみ、陥落を免れようともがいた先輩たちと違い、23歳の貴景勝の目線は上を向いている。「自分なりに正しいと思う準備をすれば、負けても素直に自分の弱さを認められる」。土俵上の結果ではなく過程にこだわるのも、より遠くの大きな目標を見据えているからだろう。
「後悔しない相撲を取りきることだけ」「自分が勝たないと始まらない。硬くなる必要はない」。平幕2人を追ういまの状況も意識の外。残り2日、気負わず冷静に土俵に上がる。(田原悠太郎)