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トランプ流「国境の壁」実現で解決遠のく移民問題

メキシコシティ支局 丸山修一

メキシコからの不法移民を防ぐため国境に壁を建設する。費用はメキシコに負担させる――。前回の大統領選期間から何度も主張して物議を醸してきたトランプ米大統領の「公約」。3000キロメートル以上に及ぶ米メキシコ国境すべてに壁を建設するという構想は、費用やその実効性を含めて否定的な見方が多かった。しかし再選を目指す2020年、トランプ氏が目指す「国境の壁」は別の形で実現しつつある。

メキシコ国境付近を視察するトランプ米大統領(2019年9月、米カリフォルニア州)=ロイター

メキシコと中米グアテマラの国境を流れるスチアテ川。20日午前、グアテマラ側に集まっていた中米ホンジュラス出身者を中心とした数百人の移民が一斉に川を渡り始めた。現在は乾期であるため水かさは深くても大人の膝程度で、女性や子供の姿も多く見られた。メキシコ側の岸辺についた彼らを待ち構えていたのが、乾いた河原と同系色の白い迷彩服に身を固めた治安部隊「国家警備隊」の隊員だ。催涙弾を使いながら次々と身柄を拘束し、翌日には出身国への送還を始めた。

「同様の事態が起これば、次も必ず同じ措置を執る」。メキシコのエブラルド外相が今後も不法移民に対して断固とした行動に出ることを会見で表明すれば、ポンペオ米国務長官も「移民問題は成果が出ている。今後もメキシコなどと協力していきたい」と外遊先のコスタリカで話し、メキシコを高く評価した。

不法入国しようとする移民を待ち構えるメキシコの国家警備隊(20日、メキシコ南東部シウダイダルゴ)=ロイター

「壁」建設もトランプ流で

任期4年の最終年度を迎えたトランプ氏が進めるメキシコ国境近辺への壁の建設は、同氏が大統領に就任する前の政権から計画されていたものなど一部にとどまる。だが、単純に公約を達成できなかった、と判断するのは早計かもしれない。なぜなら様々な脅しで自分の要求を達成するトランプ流が不法移民対策でも成果を上げているからだ。物理的な壁の建設は完成に至らなくても、メキシコやグアテマラの両国を、米南部国境を目指す不法移民を妨げる事実上の"壁"として、機能させることに成功しているのだ。

もともと米南部国境からの不法入国者の大半は中米諸国かメキシコ出身者だ。彼らは不法入国したうえで難民申請を出すことで、すぐに強制送還されることを免れ、手続き期間中に姿をくらまし米国内に滞在しつづけるというやり方が圧倒的に多い。そのため米政府はまずメキシコに対して難民申請した不法移民の待機を約束させた。協定に基づき19年は約6万人がメキシコに送られた。待機といっても難民申請のための面接まで早くても数カ月から半年待たされるため、諦めて帰国を選択する移民も少なくない状態だ。

さらに、全輸入品に対して関税を課すと脅しをかけることで、中米から北上してくる不法移民をストップさせることも要求した。従来、メキシコ政府は米国への入国を目指す中米移民に大きな関心を払っていなかった。だがこれも、トランプ氏の圧力に押される格好で、創設したばかりの国家警備隊を南北の国境付近に配置し、不法入国する移民だけでなく、すでにメキシコに入っていて、米国境を渡ろうとする移民も拘束して送還する措置を始めた。

難民申請、米国への入国前に

メキシコだけではない。グアテマラ政府にも経済協力の打ち切りや関税措置で脅しをかけ、隣国であるホンジュラスやエルサルバドルから米国に難民申請をする場合の窓口と待機場所となることを認めさせた。従来は米国内に入ってからの難民申請を、その手前のグアテマラで行うことを義務付けたわけだ。1月に就任したジャマテイ大統領は、就任前こそ前大統領時代に結ばれたトランプ政権との約束に反対していたが、結局は受け入れざるを得ない状況となっている。両国とも米国によってほぼ強制された措置を自国の費用でまかなうことも余儀なくされている。

これまではなんとか米国内に入り込めさえすれば難民申請して同国内に滞在できるはずだった移民にとっては大きな壁ができたことになる。米税関・国境取締局(CBP)によると、19年5月に米メキシコ国境付近での拘束者数は14万人を超えたが、メキシコ政府の警備強化や制度変更の効果が出て翌月からは急減し、同年12月には4万人ほどまでになった。トランプ氏にとっては不法移民を減らした、と自画自賛できる変化といえる。

抜本的な問題解決にはならず

ただこうした措置で、移民そのものが減って問題が解決に向かっているとは言い切れない。危険を冒してでも米国に向かわざるを得ない、それぞれの国の状況は何ら変わっていないからだ。移民が多い中米諸国に共通するのは貧困と治安悪化だ。目立った産業もなく経済成長率も高くない状況下では、就業機会も少なく賃金も低い。麻薬を扱う犯罪組織がはびこり生活を脅かす。国際連合ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)によると、貧困率はホンジュラスやグアテマラで5割を超え、エルサルバドルでも3割強だ。こうした状況が変わらない限り、中米諸国から米国を目指す移民の流れは止まらない。

ECLACやメキシコ政府は中米地域の経済発展による移民抑制のため、大規模なインフラ投資計画を打ち出したが、本格的な始動には至っておらず、実際に効果が出るまでには時間がかかりそうだ。移民問題の解決には壁の建設ではなく、貧困から逃れるために自国を離れる人々への支援や経済開発が必要なことは明白なはずだ。トランプ氏が自身への支持獲得、そして選挙戦での勝利を目指すための措置は見せかけの成果だけを残し、米国社会を分断する移民問題は解決にはほど遠い状況のまま置き去りになっている。

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