エンタメからプラント点検まで ドローンで羽ばたく新産業
「こんなところまで撮影できるとは!」。プラント内部を飛行するドローンのカメラが映し出す映像に感嘆の声があがる。製塩業の日本海水(東京・千代田)は、兵庫県内の赤穂工場で昨年末、実証試験としてドローンによる点検を始めた。屋外だけでなくプラント内部の配管まで入り込んで映し出される高精細映像は、まるで内視鏡検査のようだ。

これまでは点検のたびにプラント内部にも足場を組み、設置から撤去まで1週間程度かかっていた。ドローンを使えば足場は必要なく、プラント内外の撮影は3時間程度で終了する。ドローンに搭載された気圧センサーから高度情報が分かるため、補修や予防が必要な場所の特定もしやすい。これまで人が入れなかったスペースも撮影でき、コストも半分以下だという。

塩崎成治工場長は「コスト削減とトラブル予防効果が認められれば、来年度から正式に導入したい」と話す。業務を請け負ったセブントゥーファイブ(東京・港)の石井克幸社長は「データが蓄積されれば人工知能(AI)による画像解析も可能。業務がより効率化される」という。

ドローンによる点検は工場だけでなく、老朽化した道路や橋、下水道などのインフラでも活用が期待される。東京都下水道サービス(東京・千代田)は、日立製作所と共同で下水道管点検システムを開発している。マンホールの直径より小さなドローンを管内に入れ、モニターを通じて地上から操作することを目指す。点検中の急激な増水や、硫化水素の発生による作業員の危険を回避する。15年の下水道法改正で、自治体に管路の定期点検が義務化され、効率的な点検方法が模索されている。
岡山県和気町では物流実証実験中のドローンが飛ぶ。1月末まで週3回、住民が注文した食料品などを届けている。集落に通じている道は傾斜がきつく曲がりくねった1本の県道のみ。冬は雪が積もり、大雨で土砂崩れが起きたこともある。お昼ごはんのコンビニ弁当とデザートなどを受け取った村上和美さん(68)は「病気の夫は車の運転ができず、週に1度の通院は半日仕事。薬も受け取れるといいのですが」と話す。実験は来年度も継続し事業化を目指す。

同町は過疎の問題を抱える課題先進地域として、レイヤーズ・コンサルティング(東京・品川)と事業を行う。外部委託しなくてもできることは自分たちでやろうと、建設や防災などの若手担当者6人が週に1回程度操縦の訓練を重ねている。物流のほか、農業、山林の測量、赤外線カメラによる有害鳥獣調査や行方不明者の捜索など、自治にドローンを活用する可能性を探っている。

国土交通省によると、宅配便取扱個数が増加傾向にある一方で、トラックドライバー不足は深刻化している。絶対量が少ない離島や過疎地への物流は維持が難しくドローンの活用が期待される。政府の青写真では、法改正による規制緩和を経て、22年には都市部でもドローン配送などが一部実現する予定だ。


危険な場所での作業が必要な業務は多い。歩道橋の裏側に作られたスズメバチの巣の駆除依頼を受けたのは、専用ドローンを開発したクイーンビーアンドドローン(静岡市)。巣に近づいて殺虫剤を噴射して追い払い、最後は養蜂業者が巣を撤去する。同社の桜井俊秀さんは「スズメバチの巣は住宅の屋根や鉄塔、携帯電話の基地局などにもあり作業は常に危険が伴う。労災事故防止ニーズがある」と話す。
ドローンの産業利用は広告やエンターテインメントの分野でも期待されている。19年10月の東京モーターショーで披露された米・インテルによるドローンショーでは、1人のパイロットが500機を操り東京の夜空を彩った。インテルのドローン担当者は「空は巨大なビルボード(看板)だ」と話す。同時制御の技術は、効率的な点検など他分野にも応用され産業用ドローンの可能性を広げる。
「空」は何もない場所ではなく、新たなフロンティア。モノや人を運ぶドローンが飛び交い、暮らしを彩る未来は意外に近い。
(写真・映像・文 小園雅之)
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