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一家で五輪出場の室伏由佳さん ケガ・病気が襲う
陸上投てき 室伏由佳(4)

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2020/1/29 5:30
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アテネ五輪で室伏由佳は「何があっても努力を続けよう、と誓った」が…(2019年12月、都内のホテルで)

アテネ五輪で室伏由佳は「何があっても努力を続けよう、と誓った」が…(2019年12月、都内のホテルで)

中京大学4年生のシーズン終了後、室伏由佳(42)はハンマー投げに挑むことを決意する。指導する父、重信(74)は技術だけでなく精神面でも娘を支えた。そして本格的に練習を始めてからわずか5年で2004年アテネ五輪への出場を果たす。兄、広治(45)を含めて一家3人で臨んだ五輪で、さらなる努力を誓った由佳だったが、ケガと病気が立ちはだかった。(前回は「ハンマー投げに挑む室伏由佳さん 父は待っていた」

◇   ◇   ◇

1998年、中京大最後の1年が始まると、父・重信の指導はまるで乾いたスポンジが水を吸わせるように、アスリートとしての由佳の資質を目覚めさせた。重信は当時、由佳についてこんな話をしている。

「体格的には、決して恵まれてはいません。ただ、感覚的な部分で良いものを持っている。センスは、技術の再現性が求められる投てきでは有利だと思う。ハンマー投げはまだまだこれからですが、由佳のセンスに期待をしています」

量ばかりを追った自己流から、父との二人三脚でもっとも重要と指導されたのは動きの質である。由佳は振り返ってこう話す。

「父の指導を受けるようになって、自分が今何を求めているのかを常に考えるようになったと思います。よく、心技体と言いますよね。さらに、思考が重要なんだと理解できたんです」

広治を含めて、室伏家は常に思考を象徴する単語として、「動きの質」を、優勝やメダルの結果に喜ぶ以上に重んじた。そしてこの言葉が、世界に名だたるアスリート一家の「鉄の絆」であり、由佳が加わり、それは一層強く、より厳しい関係となっていった時期でもある。

■父は言葉を慎重に選んだ

競技会に出場するたびに、世界的にも例のない競技力を持った一家にマスメディアの大きな注目が集まる。こぞって求めるのは、難しい技術論よりも親子関係をより強調できるような、ほのぼのとしたエピソードの方だ。

アテネ五輪出場をターゲットにした

アテネ五輪出場をターゲットにした

しかし重信は、「2人にとって父親であるからこそ、安易にかけた言葉を子供たちがより重く受け止める可能性がある」と、自らを律し、メディアに発信する言葉を慎重に選んだ。先に指導を受けていた広治が、父を継承する新鉄人の道を歩き出したころ、こんな光景がよく繰り広げられた。観戦していたスタンドから広治のもとへ移動すると、テレビカメラも含めメディアが殺到する。

「優勝した広治くんにどんな言葉をかけてあげますか?」

「ご自身の記録を息子さんが超えられた、父としてのお気持ちは?」

どちらも「本当によくやった」、あるいは「息子を誇らしく思う」といったコメントを期待してのものだ。しかし重信はいつも表情を変えず、こう切り返した。

「広治にですか? そうですね、回転軸がブレていた、でしょうか」

こうした技術論となると、メディアは肩透かしに合ってしまう。これ以上、「どんな言葉をかけてあげたいですか」などと生温かな質問など重ねられないからだ。当時、重信がメディアに対していつも技術論で子供たちを語ろうとした理由は想像できる。オリンピックを目指す2人の強固な防波堤になろうとする、父の決意の表れだったのかもしれない。過度な注目、期待、自分の存在がプレッシャーにならないように。

技術の指導だけではなく、こうした環境における強いサポートを背景に、由佳は4年生で円盤投げの記録を再び更新し、日本インカレでも4連覇を達成する。シーズンが終わると、自ら「ハンマーをやってみたい」と父に打ち明けた。99年、翌2000年のシドニー五輪から女子ハンマー投げが正式種目に加わるが、そこには時間が足りない。ターゲットは04年アテネ五輪となった。

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