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デジタル通貨、「ドル防衛」へFRBも独自研究

【ダボス(スイス東部)=河浪武史】日欧中央銀行がデジタル通貨の発行を視野に共同研究に乗り出す。中国も「デジタル人民元」で基軸通貨ドルに揺さぶりをかける。フェイスブックの「リブラ」は、官民の枠を超えてデジタル通貨の覇権争いに火をつけた。サイバー攻撃を懸念して「現状維持が最善」としていた米連邦準備理事会(FRB)も外堀を埋められ、独自研究に乗り出す。

「中央銀行デジタル通貨(CBDC)の知見を共有するためグループを設立した」。日欧やカナダなど6中銀は21日、国際決済銀行(BIS)とともにデジタル通貨研究に乗り出すと表明した。

欧州中央銀行(ECB)は既に「デジタルユーロ」の研究に着手しており、ラガルド新総裁は「取り組みを加速する」と表明してきた。英中銀や日銀を巻き込んで動き始めたのは、フェイスブックのデジタル通貨「リブラ」計画を封じ込め、さらには世界の準備通貨としてのドル覇権も切り崩す2つの狙いがある。

リブラは世界のあらゆる中銀に危機意識を持たせた。リブラがまず目指すのは、国境をまたいだ送金ビジネスだ。中銀システムは刷新が遅れており、外国送金に時間がかかるだけでなく、手数料などの利用者のコストも平均7%と重い。リブラ責任者のデビッド・マーカス氏は「ネットを使えばコストも時間も削減できる」と説く。

もっとも、20億人を超すフェイスブックの利用者が法定通貨からリブラに流れれば、中銀は紙幣発行で得る「通貨発行益(シニョレッジ)」の一部を失い、金融システムの維持コストをまかなえなくなる。信用力の乏しい小国は、経済政策の手段である自国通貨の流通がしぼみかねない。

欧州勢の思惑は、基軸通貨ドルの切り崩しにもある。英中銀のカーニー総裁は19年8月、FRB高官が勢ぞろいするジャクソンホール会議で「多極化した世界には新たな通貨制度が必要だ」とあからさまにドル覇権に意義を唱えた。トランプ政権の関税政策にも不満を表明。主要中銀が共通で管理する「デジタル合成通貨」構想を披露し、今回の日欧中銀の共同研究構想の一端となった。

米国は「5年間はデジタル通貨を発行しない」(ムニューシン米財務長官)と極めて慎重な立場を貫いてきた。貿易決済など世界の外為取引は「ドル1強」が続き、米国は現状維持こそ最善のシナリオだ。「デジタルドル」を発行しても、サイバー攻撃にさらされて基軸通貨ドルが消滅したり強奪されたりすれば、世界経済は瞬く間に金融危機に陥る。パウエルFRB議長は「利点よりもリスクの方が大きい」とみてきた。

CBDCの普及が進めば、家計が中銀に預金口座を直接持つような仕組みになる。中銀には「デジタル通貨上で金利を直接操作でき、マイナス金利政策などの効果も高まる」(ケネス・ロゴフ米ハーバード大教授)。ただ、民間銀行が預金を受け入れて貸し出しに回す「信用創造」は損なわれ、金融システムは激変が避けられない。FRBがデジタル通貨に後ろ向きなのは、ドル覇権だけでなく、世界の金融秩序を主導するウォール街の弱体化につながるためだ。

中国も「デジタル人民元」の発行に向け、1月1日に「暗号法」を施行して法体制の整備を進める。長期的な狙いは「ドル1強」の転換だ。米国は通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)などに禁輸措置を課したが、米経済制裁の根幹は取引企業のドル決済を禁じるというものだ。過熱する米中の覇権争いは、ドルが基軸通貨である限り米国有利で進みかねない。

中国当局にとっては、国内経済を管理するには、匿名性の高い現金ではなく、取引データを容易を監視できるデジタル通貨の方が都合がいい。中国は日米欧とは異なり、銀行システムも事実上の国家管理下にあるため「最もデジタル通貨を導入しやすい」(日銀首脳OB)。

デジタル通貨の覇権争いで外堀が埋まりつつあるFRBも、独自研究に乗り出す方針だ。パウエル議長は19年11月、米議員宛ての書簡で「CBDCの潜在的なコストと利点を慎重に分析していく」と表明。同時にデジタル通貨の研究責任者を外部登用する手続きを始めた。欧州勢などとは一線を画し、FRBは基軸通貨ドルを維持するためのデジタル通貨構想を迫られている。

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Facebookが構想するデジタル通貨。値動きの激しい暗号資産(仮想通貨)と異なり、価格が安定する設計が特徴だ。ドルやユーロなどの法定通貨を裏付け資産とすることで価値を保つ。2020年12月、名称が「リブラ」から「ディエム」に変更された。

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