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1回り年下の「先輩」、豪州サッカー協会CEOに
FIFAコンサルタント 杉原海太

2020/1/22 3:00
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私の仕事仲間がこのほど、オーストラリア・サッカー協会(FFA)のチーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)に就任した。名はジェームス・ジョンソンという。私とは「肝胆相照らす仲」のジェームスがオーストラリア・サッカー界のかじ取りを任されたことを、一人の友人として、とても誇らしく思っている。

同国のアンダーエージの代表経験があるジェームスはプロのサッカー選手として大成したわけではないが、引退後のキャリアは華々しい。

新CEOのジョンソン氏はアンダーエージの代表経験もある。写真は2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会のオーストラリア代表=ロイター

新CEOのジョンソン氏はアンダーエージの代表経験もある。写真は2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会のオーストラリア代表=ロイター

米国ボストンの大学に留学、帰国して法律の勉強をした後、弁護士事務所で引退後のキャリアをスタート。2009年から11年までオーストラリアやアジア・オセアニア地域のプロサッカー選手会の仕事に携わったのを振り出しに、マレーシアのクアラルンプールでアジアサッカー連盟(AFC)、スイスのチューリヒで国際サッカー連盟(FIFA)の要職に就いた。

■30代で豪州サッカー界のCEOにつく

直近の仕事はシティー・フットボール・グループ(CFG)のシニア・バイス・プレジデント(副会長)である。

CFGといえば、アラブ首長国連邦(UAE)の投資会社「アブダビ・ユナイテッド・グループ」が08年に英プレミアリーグ、マンチェスター・シティーの経営権を取得したのを皮切りに、米国のニューヨーク、オーストラリアのメルボルン、日本の横浜F・マリノス、中国の四川、インドのムンバイなど複数のクラブを1つの集合体として扱う、言わば「グローバルフランチャイズ戦略」を展開していることで知られる。

ジェームスはそこでエクスターナルアフェアー(外交)部門を任され、世界戦略の一翼を担っていた。異なる国の協会、クラブ、選手会など、ステークホルダーの利害調整を図るのは、AFCでもFIFAでも彼がずっと得意にしていたところ。

そのままCFGに腰を落ち着けるのかと思いきや、FFAが新しいCEOを求めることになり、その候補者の中にジェームスが入り、昨年12月に新CEOに指名された。CFGの副会長になってからほぼ1年、あれよ、あれよ、という間の転職だった。

こうやって履歴を読むと、日本なら年配の人物像を思い描くことだろう。実際の彼はまだ30代である。彼の友人いわく「2階級特進を3回くらい繰り返して今のポジションに就いた感じ」。まったく同感だ。

11年に私はAFCで彼の部下となった。その時、私は40歳、彼はまだ20代だった。その後、妙にウマが合った彼とはAFCで2年、FIFAで4年、ともに働くことになる。

元スペイン代表でJ1神戸でも活躍したビジャ(左)はCFG傘下のメルボルンでもプレーした=ロイター

元スペイン代表でJ1神戸でも活躍したビジャ(左)はCFG傘下のメルボルンでもプレーした=ロイター

仕事上の良きパートナーになれたのは2人の間に補完性があったからだと思う。人の意見によく耳を傾けるジェームスは最終的な落としどころを定めて方向性を示すタイプ。そんな彼は私を「海太はコンセプトを実際の形にするのがうまい」と重宝がり、自分がAFCからFIFAに転職した後も、私を彼の部門に呼び寄せたのだった。私より10歳以上年下だけれど、自分が影響を受けた人間として彼は三本の指に入ると思う。

地元のメディアは彼がCEOに選ばれた理由を「協調型のリーダーであり、チームプレーヤーでもある」と報じている。それは一緒に働いた私にとっても腑(ふ)に落ちる話だ。タイミング的にオーストラリアのサッカー界もそういうリーダーを欲しているのだろう。

05年にAリーグがスタートするまで、オーストラリアに純粋なプロのサッカーリーグはなかった。人気面でもラグビーやクリケット、オーストラリアンフットボールなどに押され、サッカーはマイナースポーツだった。立ち位置としては米国におけるサッカーに近かった。大陸連盟も当時はオセアニアに属し、国際サッカーの中心から離れている印象が強かった。

そんなかの地のサッカーはAリーグを誕生させ、オセアニアからアジアへ転籍した2000年代半ばから大きな変貌を遂げた。市場の成長性と競技力向上の両面からアジアと深くコミットする戦略が吉と出たわけである。ワールドカップ(W杯)出場でいえば、アジアに転籍してからすっかり常連さんになった。

その結果、サッカー界として自信をつけた部分があるのだろう。実務を取り仕切る歴代のCEOはラグビーやオージーボウルの経営に携わった、どちらかというとビジネス寄りの人間が主だった。今回のジェームスは、そういう意味ではサッカー寄りのCEOが誕生したと歓迎されているようなのだ。

■日本と同じ島国、発想は内向きになりがち

難問は山積しているらしい。特にガバナンスに関していろいろな議論が起きているという。選手育成のプログラムにしても、オーストラリアにマッチしたモデルを模索しているようである。Aリーグについても協会の外に別法人として存在するべきだという意見がある。下部リーグに相当するものはあるが、現在のAリーグには昇降格制度はない。それに対し、地域協会、クラブ、選手会など、いろいろなステークホルダーから不満が出て、摩擦が生じるようになっている。そういうもろもろの問題の解決の道筋を示すことが新CEOには求められることになるという。

オーストラリアは2023年女子W杯開催国(ニュージーランドと共催)に立候補している。19年大会で豪女子代表はベスト16まで進んだ=ロイター

オーストラリアは2023年女子W杯開催国(ニュージーランドと共催)に立候補している。19年大会で豪女子代表はベスト16まで進んだ=ロイター

それでも、ジェームスなら新しいタスクを立派にやり遂げる気がしている。AFCでもFIFAでも複雑に入り組んだ事象を見事に整理してきた。バランス感覚に優れた協調型の人間ではあるが、決して受け身ではない。いろいろな意見の違いをまとめていくパワーがある。

特に感心するのは、立場や肩書の違いに臆することなく、どんな人間とも堂々と渡り合えること。人の意見を聞くことと、自分の意見を通すことを両立できない人は多いが、彼はそれが自然にできる。

AFCやFIFA時代にいろんな国のサッカー協会のお偉いさんとも彼は仕事をしてきたが、そんな時でも彼は常に自然体だった。そこは「年齢は?」「出身大学は?」と属性をやたら気にする日本人には、なかなかまねができないところかもしれない。

上から目線でも下から目線でもない。とにかくフラット。人と人の話なので最後は信頼関係がすべての交渉の土台になるが、そんな人間性をしっかり見られて信頼されるのがジェームスという人間だった。

オーストラリアと日本は辺境の島国という点で似ているところがある。発想は内向きになりやすく、国際化という抱える課題も同じ。それだけに、ジェームスのような経営人材が若い層から出てくるのがうらやましくもある。これまでに積んだグローバルな経験、ローカルな経験をすべて役立てて、オーストラリア、ひいてはアジアのサッカーの発展に寄与してほしいものである。

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