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前ロッテ・マン投手も挑戦 米トライアウトの舞台裏
スポーツライター 丹羽政善

2020/1/20 3:00
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普段は、ハードロックが大音響でかかっているトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」のメインジム。しかしこの日は音楽が止められ、隣の人と話すにも気を使うほど。選手によっては、これが最後のチャンスと位置付け、その表情、背中が、張り詰めた空気をつくる。

これでダメなら……。奥さんと生後6カ月の娘を同席させた35歳のブランドン・マン(前ロッテ)が、5番目でマウンドに上がった。

背後には、大リーグのスカウトがずらり。捕手の後ろにも、スピードガンを構えたスカウトが並ぶ。

トライアウトに臨むマン。背後にはメジャーのスカウトが陣取る

トライアウトに臨むマン。背後にはメジャーのスカウトが陣取る

序盤は90マイル(約145キロ)に届くかどうかだったフォーシームの球速だが、徐々にギアが上がり、92マイル台をコンスンタトに記録するようになると、彼のトレーニングをサポートしてきたドライブラインのトレーナーらが、「もっと行ける!」と声をかける。

その声援に背中を押されるかのように、マンのギアがもう一段上がる。92マイル台後半を何度か記録した後、一気に93.6マイルと150キロ超えをたたき出すと、歓声が上がった。

16選手が参加、17球団からスカウト

1月12日、米シアトル郊外にあるドライブラインで、「プロデイ」と称されたトライアウトが行われた。昨年11月から12月にかけて、西武、ロッテなどが選手を派遣していた、あのトレーニング施設である。

対象は投手のみだが、駆け付けたスカウトの数は17球団に達し、16選手がエントリーした。室内練習場に設けられたブルペンで1人当たり30球前後を投げ、球速のほか、ボールの回転軸、縦横の動きなどが分かる機器ラプソードで球質を測定する、同時に、エジャートロニックという1秒間に最高1万8000コマの撮影が可能という超高性能ビデオカメラで真後ろから撮影。それらをスカウトの求めに応じて提供するという、科学的なアプローチで知られるドライブラインならではのトライアウト風景は、2年前に取材した時とは様相が異なった。

その2年前、参加者の中で元大リーガーは、マーク・ロウ(マリナーズなど)ただ一人。スカウトの数も今年の半分程度で、独立リーグの選手がわずかな望みをかける場と映った。しかし今回は、2010年にナショナルズでデビューすると、11年に43セーブを挙げ、15年にも29セーブを記録したドリュー・ストーレンが先陣を切り、2番手では、レイズ時代の15年に41セーブでセーブ王となり、ダイヤモンドバックス時代の18年に32セーブを挙げたブラッド・ボックスバーガーがマウンドに上がっている。

最初にマウンドに上がったメジャー通算99セーブのストーレン

最初にマウンドに上がったメジャー通算99セーブのストーレン

まだ30代前半で、大リーグで実績もある選手らが、1月前半に90マイルを超える球をコンスタントに投げられるほどに体を仕上げてくる。またそうしなければ、彼らでさえ、契約が取れないかもしれないという大リーグの厳しい現実が、そこに読み取れた。

3番手は、昨年まで巨人に在籍したテイラー・ヤングマンだったが、5番手で登場したマンには、期するものがあった。「自分は35歳だし、5月には36歳になる。でも、身体の調子はいい。昨年、左の前腕を痛めたけれど、もう不安はない。なにより、しっかり投げられるところをアピールしたい」

言葉通り、150キロ超えは分かりやすい形でそれを示した。もちろん、それは偶然ではない。昨年10月に日本から米国に戻ると、ほぼ毎日のようにドライブラインに通って、無駄のないピッチングフォームを模索した。

「まずは、セットしたときのグローブの位置を腰のあたりから顔の位置まで上げた」とマン。「そうすることでテークバックを取ったとき、素早く左手をトップの位置に持っていける」

その効果――。「コンパクトに腕を振ることで、トップスピードでタイミングよくリリースができる」とマンは説明し、続けた。「結果として、制球がより安定するようになった」

修正したフォームの説明をするマン。構えたときのグローブの位置が高くなった

修正したフォームの説明をするマン。構えたときのグローブの位置が高くなった

あくまでもスムーズに、そして力のロスがないように、という目的でメカニズムを修正。同施設で練習し、やはりコンパクトなフォームで投げるトレバー・バウアー(レッズ)にもアドバイスを求めたそうだが、球速も上がった。「92マイル台だった球速が、93マイルを超えるようになった」

もっとも、球速だけが契約につながるとは、本人も考えていない。事実、トライアウトが終わってマンに声をかけたあるチームは、スライダーの動きに注目し、回転数の確認をドライブラインに求めてきた。

フォーシームに関しては、回転数というより、回転軸に伴う縦横の動きが重視されるが、変化球の場合、動きだけではなく、回転数も評価基準とする球団が多い。マンのスライダーの回転数はもともと高く、昨年、大リーグのスライダーの平均回転数(毎分)が2428回転だったのに対し、彼のレンジャーズ時代(18年)の平均は2873回転。トライアウトではある1球が3035回転を記録したが、昨年、3000回転を超えるスライダーの比率は全スライダーのうち0.4%で、大リーグでも貴重なのだ。

ピッチデザインでフォームを修正

そのスライダーの制球がマンにとっては課題だったが、「2年前からドライブラインで、ピッチデザインに取り組んできた」そうだ。

ピッチデザインとは、例えば、スライダーを投げて、ラプソードで回転数、回転軸、縦横の動きをチェック。そのときの握り、手首の角度などをエジャートロニックカメラで併せて確認する。そこで仮に、もっと横にスライダーを曲げたいのだとしたら、どうしたらいいかを考える。回転軸を変える必要があるが、そのためにはどう握りを変えたらいいのか、あるいはリリース時の手首をどう変えたらいいのか。一球一球、両機器を使って試行錯誤していく。そうして理想の軌道に近づけていく作業をバウアーは、13年にピッチデザインと名付けたが、マンもまたそうしてスライダーの制球を安定させ、今回のフォーム修正でも、同様の取り組みを行った。

トライアウトを終え、家族と話すマン

トライアウトを終え、家族と話すマン

プロデイを終えてマンは、「できることはやった」と満足げ。「あとは、今回のビデオやデータを知っているスカウトに送って、見てもらおうと思う。日本のチームはこの時期、もう外国人選手を取らないかもしれないけれど、これから何が起こるかわからない。声がかかるのを待ちたい」

あれだけ投げられれば、現実的にはマイナー契約を交わしてメジャーのキャンプに招待という可能性も考えられるが、「日本へ行きたいんだ」とマンはいう。「日本の文化が大好きだし、日本の人にはよくしてもらった。できれば、日本のチームと契約したい」

マンは今も、毎日のようにドライブラインで練習をしながら、連絡を待つ。

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