金買い取り量6年ぶり高水準 19年、田中貴金属工業
国内地金商最大手、田中貴金属工業の金地金の買い取り量が2019年は前年の2倍になり、6年ぶりの高水準となった。米国の利下げや米中貿易戦争の激化、英国の欧州連合(EU)離脱の混迷など不確実性が高まり金価格が大幅に上昇。国内価格は安定した為替相場を背景に約40年ぶりの高値をつけ個人の売りが急増した。

田中貴金属によると、19年の金地金の買い取り量は3万3742キログラムと18年に比べ2倍になった。金価格が高止まりしていた13年(3万5053キログラム)に次ぐ買い取り量となった。
買い取り量急増の主因は国際価格の上昇だ。米中摩擦の激化で景気減速懸念が強まり、米連邦準備理事会(FRB)は昨年7月に10年半ぶりの利下げを決定。金の国際指標であるニューヨーク先物は8月に1トロイオンス1500ドルを突破した。円建ての金の店頭販売価格も7月中旬に1グラム5000円(税抜き)の大台に乗せた。
9月には米中両国が制裁関税第4弾を発動。FRBも景気を支えるため7月以降、3会合連続で利下げを実施し、金の国際価格も6年4カ月ぶりの高値まで上げた。店頭販売価格は年末には5300円(税抜き)台まで上昇、年間では18%値上がりした。
19年を通じて変動が小さかった為替相場も円建ての金価格を押し上げた。一般的に金融市場で不確実性が高まると金とともに、安全資産とされる円も選好されやすい。ただ19年は対ドルで円相場の変動幅が過去最低にとどまった。円高の進行が限られたことも国内価格上昇の追い風になった。
「19年の特徴の一つは販売価格が歴史的な高値で推移したにもかかわらず、20トン近くを個人が購入したことだ」。田中貴金属の加藤英一郎貴金属リテール部長は指摘する。同社の販売量は2万90キログラムと18年に比べ18%減にとどまった。他の地金商でも「高値でも売らず追加購入する客も少なくなかった」との声が聞かれる。
一見高値づかみに見える金買いを後押ししたのが19年の国内要因だ。金地金を購入する際に課される消費税の増税が10月に実施されたのが大きい。金は売却時に消費税分が上乗せされ買い取られる仕組みだ。消費税が8%の時に購入し、10%時に売却すれば値上がり益に加え2%分手取りが増える。19年の平均価格では1グラムあたり100円弱が上乗せされる計算だ。販売量を月別で見ると金が最高値圏にあった増税前の9月に販売量が3391キログラムと大きく増え、19年の月間平均の2倍となった。
19年に6年ぶりの高水準まで金を売った個人だが、20年に入っても売りの勢いは衰えていない。米軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害による中東情勢緊迫を受け、金の買い取り価格は8日に1グラム5510円(税抜き)と、40年ぶりの高値を更新した。店頭でも「年明け早々から持ち込みがどっと増えた」(都内地金商)という。11月には米大統領選も控えており金相場の変動が大きくなれば20年も金取引が盛り上がる一年になりそうだ。(南畑竜太)
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