自動車産業の「破壊者」米ウェイモの正体

CBインサイツ
スタートアップGlobe
2020/1/20 2:00
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世界でも屈指の技術力を誇る米ウェイモの自動運転車

世界でも屈指の技術力を誇る米ウェイモの自動運転車

CBINSIGHTS
 米グーグルを傘下に持つアルファベットは近年、自動車産業にとって脅威と見なされている。グーグル時代からAI(人工知能)を駆使した自動運転車の開発で世界をリードしてきたからだ。自動運転部門は現在、「ウェイモ」として子会社化されている。AI技術では当然、グーグルなどアルファベット傘下企業と二人三脚の体制を築いている。CBインサイツの調査でその知られざる実像が浮き彫りになった。今回は自動車産業の「破壊者」を解剖し、その影響力を考察した。

ウェイモは自動運転プロジェクトの草分けだ。同社の自動運転技術は世界で最も高度だとされている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ウェイモは自動車を生産せず、自動運転車向けにエンドツーエンドのAIソフトウエアを開発している。仏ルノーや英ジャガー・ランドローバー、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)といった大手自動車メーカーと提携している。

ウェイモは自動運転車の開発競争をリードしているが、この市場は今や過密状態。公道を走行する初の完全自動運転車の開発競争では成功も失敗もそれなりに経験している。ウェイモのAI活用法や既存の自動車メーカーへの影響についてまとめた。

■主な内容

・ウェイモは自動運転車と配車サービスを組み合わせている。このふたつは車の所有と需要に頼る既存の自動車メーカーのビジネスモデルに最も破壊的な影響を及ぼす脅威だ。もっとも、ウェイモの競争相手は米ウーバーテクノロジーズなどの配車サービスだ。ウーバーは市場シェアの7割を握っており、ウェイモと同様に自動運転車の開発に取り組んでいる。

・ウェイモは部品サプライヤーでもある。自社の高性能センサー「LiDAR(ライダー)」を他の業界の競合しない企業に外販し始めた。自動運転システムの一部を収益化する機会に注目しており、ライダーを手がける米ベロダイン・ライダーなどとライバル関係になる。

・ウェイモはアルファベット内部のAIの専門知識を活用できる。グーグルはアルファベットとして再編されたことで、AI事業の合理化やAIの専門知識を持つ様々なチームの分野を超えた協力が盛んになった。ウェイモはアルファベット傘下の英ディープマインドと共同で、画像の認識やセグメンテーション(識別)に取り組んでいる。

■ウェイモによるAIの活用や訓練

ウェイモは自動運転技術を進化させるため、機械学習を様々な形で活用している。ただ、停止している車の背後から歩行者が飛び出す場合や吹雪など、危険性は高いが頻度は少ない状況では、現実世界のデータを使って自動運転車を訓練するのは難しい。

そこで、自動運転車は代わりにVR(仮想現実)シミュレーションを使って何十億マイルも走行している。ウェイモのシミュレーションソフト「カークラフト(Carcraft)」は「ファジング(fuzzing)」と呼ばれるプロセスを使い、こうした特別なシナリオをつくりだす。

ウェイモの研究者は、機械学習のアルゴリズムを改良し続けるためにシミュレーションで「2万5千台相当の車を常時走行させている」と明らかにしている。

■物体や周囲の状況の認識

自動運転車の最も基本的なタスクは、周囲の物体を認識することだ。ウェイモは人間の脳の仕組みを模した「ニューラルネットワーク」を活用し、どんな気象状況でも信号機や自転車、歩行者、車線などを正確に検知する。

同社の研究チームはこのほど、人間の手ぶりを理解する車の動画を公開した。動画では、信号が故障した交差点で自動運転車が停止し、警察官の手信号に従って進む様子が示されている。

歩行者や近くを走る車の次の動きの予測は、事故を避けるために欠かせない。ウェイモは2019年、車のセンサーからニューラルネットワークにデータを送信し、近くの車のある時点での位置を予測するシステムで特許を取得した。

自動運転車は通常、道路のグラフデータ(あるエリアの車線やこうした車線の進行方向の詳細なデータ)が使える場合には、これを使って車の位置を予測する。だが、ウェイモの特許では近くの車の物理的特徴を調べ、グラフデータがなくてもその車の次の動きを予測できる。

■自動機械学習(オートML):AIを使って最適なAIを選択

ニューラルネットワークのアーキテクチャー(構造)は数千種類あり、エンジニアはこれらを手動で試し、いくつかを微調整して目の前のタスクに最適なニューラルネットワークを見つけ出している。だが自動運転車にとって、反応時間は正確さと同じほど重要だ。公道での遅延は命取りになりかねない。

「自動運転車の公道走行に必要な質と速度を達成するためにニューラルネットのアーキテクチャーを最適化する作業は、新しいタスクではエンジニアが何カ月もかけて微調整する複雑なプロセスだ」(ウェイモの担当チーム)

ウェイモは19年1月、グーグルのAI研究者と共同で、ライダーで木や歩行者、車を検知するのに最適なニューラルネットワークのアーキテクチャーを見つけるプロセスを自動化する様々な方法をテストした。

自動機械学習によるアーキテクチャーの検索
出所:ウェイモ

自動機械学習によるアーキテクチャーの検索
出所:ウェイモ

ウェイモとグーグルが試している手段の一つはプロキシ(代理)データセットの生成だ。この場合のプロキシとは、AIのアルゴリズムの訓練に必要な実際のデータセットの「軽量版」だと考えてほしい。実際のデータセットで数千のニューラルネットのアーキテクチャーをテストするには膨大な演算力が必要となり、数カ月かかる。

まず実際のデータセットの代理にふさわしいプロキシを生成する。それから自動MLを使って1万種類以上のニューラルネット構造を自動検索し、プロキシデータで最も実績が優れていたニューラルネットを特定する。

ウェイモによると、ライダーのデータでこうしたプロキシのエンドツーエンドの検索が使われるのは、今回が初めてだという。

■進化的選択

ウェイモはディープマインドのチームと協力し、ニューラルネットの最適なモデルを選ぶ「evolutionary selection(進化的選択)」という概念も研究している。

これは自然界での進化の仕組みに似ている。1組のニューラルネットワークを互いに競わせ、演算力や演算に使うリソースの無駄を避けるために実績の良い方だけを残す。最適なネットワークを「コピー」して子孫を作り、これを活用する。

出所:ディープマインド

出所:ディープマインド

ウェイモとディープマインドは初期の実験でニューラルネットに路上の歩行者や二輪運転者の周囲に箱を描かせるタスクを課し、次の2つの基準について結果を評価した。

・あるシーンで検知された歩行者の数

・歩行者と特定された物体のうちの実際の歩行者数

■オープンデータセット

自動運転車の開発が盛んになるのに伴い、AIのアルゴリズムの訓練に必要なクリーンなラベル付き(正解付き)データの需要が高まっている。

「AI開発チームはこうしたデータを喉から手が出るほど欲しがっている。今は数千ドルを費やして自前でデータを収集しているからだ。シリコンバレーの比較的小さなスタートアップ企業で、顧客向けに画像のラベル付けを手がけるスケール(Scale)はこのほど、企業価値が10億ドルに達して『ユニコーン』になった」(米誌フォーブス)

ウェイモは同社のロボタクシーが数百万マイルを走行して集めた訓練データを無償で公開している。データを無償で公開するのは同社が初めてではなく、用途が限定される非商業的なライセンスである点には批判も多い。

ウェイモの主な狙いはAIを認知に使う場合の一定の問題を解決するために優れたアイデアを募り、コンペを開催することにある。

■自動車分野の既存プレーヤーへの影響

ウェイモの成功は自動車業界の主な利害関係者に影響を及ぼしている可能性がある。まずはサプライヤーだ。ウェイモは自動運転車の開発コストを抑えるため、関連製品の外販を当面の目標にすると明言している。


例えば、同社は最近「スケールメリットを生かしてセンサーをもっと手ごろな価格にするため」に、最も高価な自動運転車の部品の一つであるライダーを他の業界の競合しない企業に外販し始めた。これにより、ウェイモはベロダインなどライダーを手がける他社と直接競合することになる。

ウェイモは一部のAIソフトウエアでも同様の手法に踏み切り、この分野の中小勢を徐々に排除する可能性がある。ウェイモは車を生産していないため、自動運転システムを求めている既存の自動車メーカーの「自動車版アンドロイド」になるかもしれない。

次に、完成車メーカーへの影響はどうか。ウェイモは自動車そのものを生産してはいないが、自動運転ソフトウエアを開発し、ルノーや日産自動車など既存メーカーと提携している。

将来的には、自社サービスで使う自動運転車向けに車両を大量購入する可能性もある。消費者が車の所有よりもシェアリングを好むようになりつつあることも考えると、既存メーカーは利ざやの薄いコモディティープレーヤーに陥りかねない。

もっとも、ウェイモがしのぎを削るのは過密状態にある市場だ。市場が細分化したり、寡占状態になったりする時期があるかもしれない。

過密状態の自動運転車市場

過密状態の自動運転車市場

自動車整備やディーラーにも影響を及ぼしている。ウェイモは米自動車ディーラー最大手のオートネーションと提携し、確固たる拠点を持つ既存のディーラーに修理やメンテナンスを委託しようと計画していることが明らかになった。

ウェイモの影響により自動車サプライヤーは需要が増えたり、予知保全や(グーグルが大半の修理・メンテナンス費用を支払う場合には)新たな法人向け事業に注力するなど運営方法が変わったりする可能性がある。

オートネーションのマイケル・J・ジャクソン最高経営責任者(CEO)は米ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューでこう指摘している。「こうした車(自動運転車)は乗用車をはるかに上回る数十万キロを走行しなければ採算がとれない。このため、今よりもずっと積極的で予防的なメンテナンスが必要になる」

ウェイモはロボタクシーの燃料補給と洗車を委託するため、米レンタカー大手のエイビス・バジェット・グループとも提携している。

■配車サービス

ウェイモは18年、米アリゾナ州フェニックスで自動運転車による配車サービス「ウェイモ・ワン(Waymo One)」を開始した。サービスは限定的な上、完全な自動運転車ではなく安全のために運転手が同乗するため、期待外れとみなされた。

ウェイモ・ワンはフェニックスで既に約1000人の乗客にサービスを提供している。サービス拡大に伴い、価格設定が異なるモデルも試験導入している。

ウーバーや米リフトなどの配車サービス各社もそれぞれ自動運転の開発に取り組んでいる。各社の実証実験も成功すれば、既に市場シェアを握っている分ウェイモよりも優位に立つだろう。例えば、ウーバーは運賃ベースで米配車サービスの70%以上のシェアを占めている。

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