津田大介 「変わらないiPhone」で感じたスマホの変化

ジャーナリストの津田大介氏が、興味のあるモノやサービスを取り上げている本連載。今回は津田氏が最近購入したアップル製品を振り返る。購入したのは、「iPhone 11 Pro」「Apple Watch Series 5」「AirPods Pro」。それぞれの長所、短所を振り返りながら見えてきたのは、スマホを取り巻く状況の変化だった。
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2008年に日本で初めてiPhone 3Gが発売されて以来、僕はiPhoneの新機種が登場するたびに買い替えていた。しかし、18年9月に発売された「iPhone XS」は初めて購入を見送った(記事「津田大介 僕が新iPhone購入を初めて見送った理由」参照)。大きな理由は、「買い替えたい」と購買意欲がそそられるほどの進化を、iPhone XSに感じなかったからだ。
19年、2年ぶりに新機種の「iPhone 11 Pro」を購入した。実際に使ってみた正直な感想は、今まで使っていたiPhone Xと「驚くほど変わらない」だった。

確かにカメラは、iPhone Xに比べて進化している。暗闇での撮影は明らかにきれいで、話題の超広角レンズも重宝する。バッテリーも長持ちするようになった。ただ、それらの進化はある意味、想定内。「この機能を使いたいから買い替える」といった魅力はiPhone 11 Proに見当たらなかった。
一方で「3Dタッチ」が非対応になったことは、僕にとって明らかな退化だった。従来は強く押し込めばすぐに表示されたが、現在は「触角タッチ」が搭載されて長押しする必要がある。コンマ数秒の違いだが、実際に使い比べると意外とストレスがたまる。アプリの閲覧やQRコード撮影など、様々なシーンで重宝していただけに残念だ。
もちろん細部は旧機種から進化しているが、毎年買い替えるとなると、現在のiPhoneの価格は決して安くない。次に出る新モデルもよほど革新的な機能がない限り見送ろうと思っている。明らかに進化のスピードは遅くなっているので、「新モデルが出るたびに買い替える」というサイクルに戻ることは、もうないかもしれない。
Apple Watchがついに常時表示機能を搭載
Apple Watchは、2018年のSeries 4に引き続き、2年連続で最新のSeries 5を購入した。Series 5ではついに時間を常時表示してくれるようになった。これまでApple Watchは時計を動かさないと文字盤が表示されなかったのだ。Series 4は性能的にはとても満足したのだが、常時表示機能が搭載されていないのが唯一の不満だった。
今回の進化で、打ち合わせなどをしている時でも相手に気を使わせることなく時間をチェックできるようになった。実際に使ってみると、その便利さを実感する。正直なところ、Series 5で常時表示機能が搭載されることがわかっていれば、前年のSeries 4は見送っていたのに、と思わないでもない。
欲を言えば、腕から外している時でも時計は常時表示してほしかった。装着していないときは、省電力にしてバッテリーを長持ちさせたいのだろうが、オフィスなどの机で仕事をしているときは、パソコンの横に置いていることも多い。バッテリーの持ちも初代に比べると長くなってはいるが、もう少し長くなってほしいところ。外出中に切れると嫌なので、僕はApple Watch用のモバイルバッテリーを持ち歩いている。

AirPods Proは評判通りの完成度
19年に購入して一番良かったアップル製品は、文句なしに「AirPods Pro」だ。AirPodsシリーズを使うのは初めてだが、周りの評判が非常に高かったので実際に買ってみたところ、高評価も納得できる完成度だった。

実は昨年、ソニーの「WF-1000XM3」も購入したのだが、AirPods Proのほうがノイズキャンセリングの性能が優れていると感じた。僕は、カフェなどで原稿を書くとき、音楽を流さないでAirPods Proを装着していることも多い。周囲の雑音をシャットアウトしてくれるので、作業に集中できるのだ。装着感も良く、長時間のフライトや作業で着けっぱなしにしていても耳が痛くなりにくい。ケースが小型で持ち運びしやすいのもメリットだろう。
使ってみて実感したのが、ハンズフリー通話のときの音質の良さだ。WF-1000XM3だと、相手に何を話しているかわからないと言われたこともあったが、AirPods Proはそういった問題がない。iPhoneと連携して使う上ではベストだろう。
音質に関してはWF-1000XM3のほうが優れているが、装着感やノイズキャンセリングなど、トータルの完成度はAirPods Proのほうが高い。ここまで質の高い製品が出てくると、ノイズキャンセリングの先駆けとも言えるBOSEの動向が気になる。登場が噂されている完全分離型のノイズキャンセリング製品は、よほどレベルが高くないとAirPods Proの牙城を崩すのは難しいのではないか。
スマホ単体では差別化が難しい時代に
今回、3つのアップル製品を使いながら感じたのは、スマホ単体だともはや差別化が難しくなっているということだ。最近は、低価格で高性能なスマホも数多く登場している。単にスマホとしての機能や性能を比較すれば、価格の高いiPhoneを選び続ける理由はほぼ見当たらない。
ただし視点を周辺機器まで広げると話は変わってくる。
使い勝手抜群のApple WatchやAirPods Proと親和性が高い点は、他社のAndroidスマホにはない大きなアドバンテージだ。特に、Apple Watchはライバルが不在で、スマホと連携して快適に使うためには、iPhoneが手放せない。iPhoneからAndroidスマホに乗り換えた人の中には「Apple Watchを使えなくなったことが一番困った」という人もいるという。
19年に関して言えば、iPhone 11 Proは想定内のバージョンアップにとどまったが、Apple WatchとAirPodsが大きく進化した。これはスマホ単体ではなく周辺機器も含めたインテグレーションで差別化する時代に突入したということだろう。この流れはアップルだけでなく、Galaxyシリーズを発売するサムスンなどでも、顧客を囲い込む戦略として広がっていくはずだ。消費者がスマホを買い替える際の目線も変わってくるだろう。

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。近著に「情報戦争を生き抜く」(朝日新書)。
(構成 藤原達矢=アバンギャルド、写真=吉村永)
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