中国、建機の完全自動化目指す

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コラム(テクノロジー)
2020/1/16 2:00
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自動運転の実用化や収益化には困難が伴う。同業界に関わる投資家たちの忍耐も試されているところだ。しかし、自動運転の実用化のシーンを人や車がひしめく都市部から人里離れた鉱山に移すならば、そこが自動運転を最速で活用できる場であることに気づくだろう。

36Krは同分野に特化する「拓疆者智能科技(Builder X、以下『拓疆者』)」を取材した。2018年8月創業の同社は主にウェットリースや業務アウトソーシングの形式で、鉱区、風力発電所、道路、事業用不動産などに対し遠隔で自動操作できる建設機械を提供し、安全性や効率を高めると同時に、人件費などの問題を解決している。

無人掘削機が作業している様子(拓疆者智能科技提供)

無人掘削機が作業している様子(拓疆者智能科技提供)

「騒音や震動がひどく、粉塵が舞い、単調かつ危険な環境で働きたいと願う現代の若者は少ない。彼らにとっては、山奥で掘削機を運転するくらいなら、都会で出前の配達員でもしていた方がよい。現在、こうした現場で働くオペレーターは40~50代が主力で、体力の限界を感じるか、あるいはリタイアする段階にまで来ている」。拓疆者の創業者でCEOの隋少龍氏は鉱業をめぐる現状をこう説明する。

「一昨年は月給1万元(約16万円)、昨年は1万2000~1万5000元(約19万~24万円)を提示したが、半年間でじん肺を患うリスクのある危険な坑内の仕事なら2万元(約32万円)以上出してもいいくらいだ」

こうした労働力不足を解決するため、拓疆者は既存のショベルカーやホイールローダーなどに後付けできるキットを開発し、インターネット通信を用いた遠隔操作で現場作業を行えるソリューションや専門資格を持つオペレーター人材を提供している。現場には、緊急時にセキュリティロックを発動し、機械のメンテナンスや給油を行う管理人員を1人置くだけで済むようになるという。

センシング技術で採掘や運搬の現場を認識する(同)

センシング技術で採掘や運搬の現場を認識する(同)

拓疆者の製品はすでに北京の石材製造現場で半年前から稼働しており、石材の積載・運搬や整地作業などを手がける。また海南省の農場では耕地や給水路の整備を支援している。いずれの掘削機も、北京に構える拓疆者のオフィスから専門スタッフが遠隔操作している。

拓疆者の殷銘CTOによると、こうした遠隔制御によって速やかに自動運転の実用化へ漕ぎつけたものの、単純な遠隔操作では顧客が十分に満足できる成果や効率化を実現できないという。

問題点の一つは、掘削機上部に取り付けられたカメラが周辺環境を認知する能力は、実際の作業員に及ばないことだ。もう一つの問題点は、操作と動作のタイムラグを完全には防げないことであり、これらの原因により、遠隔操作による精密作業は効率面でのロスが大きい。

一つ目の問題点「センシング技術」に関して、拓疆者はコンピュータービジョンを用いたスマートセンシング技術を開発した。

殷CTOは具体的な解決例として、「我々の機械が作業中に絶壁から転落しかけたことがある。当初は操作ミスだと考えていたが、分析の結果、遠隔操作画面では現場の土や岩石による段差が認識しにくいことがわかった。その後、被写界深度を割り出すアルゴリズムを開発したり、AR(拡張現実)を活用したインターフェースを開発したりして、センサーが検知した情報をUI上にレンダリングできるようになった」と述べた。また「我々の機械が死角にいる人物に衝突しそうになったこともある。対策として視界360°のカメラを導入したが、オペレーターがすべてのモニターを同時に注視し続けることは不可能だ。そこで、人物を認識する深層学習モデルにモニタリングを任せ、周囲の人物または他の機械を検知した際にはポップアップ画面でオペレーターに知らせ、機械を手動で制御する仕組みで対応した」と説明した。

二つ目の問題点「タイムラグ」に関しては、ロボットの自動化技術を応用した。掘削機を一つのロボットアームに見立て、精密な動作を自動で行えるソリューションに挑んだのだ。油圧駆動による検知・制御の精度が従来の電気駆動型ロボットアームに及ばないことから、これを克服するために複数のセンサーを組み合わせ、関連のアルゴリズムを強化することで精度や効率を補完した。

殷CTOによれば、同社の最終目標は建設機械の完全自動化だ。深層学習による環境理解アルゴリズムが採掘や運搬の現場で積卸地点を自動で選択し、人員による現場作業への介入を減らす試みをスタートしている。ただし現時点では熟練したオペレーターが遠隔操作を通じて施工を行い、アルゴリズムやストラテジーを磨くために実践データを積み上げている段階にある。

すでに海外市場への進出も進めている。隋CEOによると、すでに香港、日本、豪州などで提携先の打診を行っているという。これらの地域の鉱区は中国と同じく安全面のリスクを抱えると同時に、人的コストが工費の4割以上を占めているという問題がある。

豪州では鉱業が国の主要産業となっており、「FIFO(フライ・イン・フライ・アウト)」と呼ばれる就業形態が常態となっている。都市部に住む作業人員が航空機を使って山間の採掘現場へ飛び、食事や住居を支給され、一定期間住み込みで就業するもので、年収は10万豪ドル(約760万円)にも上る好待遇の仕事だ。雇用側としては高い賃金に加え食費や住居費、保険などの負担も大きく、1人当たりの人件費は25万豪ドルにも跳ね上がる。しかし、こうした好待遇にもかかわらず、15~24歳の若年人員は8%にも満たず、作業員の平均年齢は45歳だという。家族や自宅を離れてまでつらい仕事をしたくないのが若者たちの本音だ。拓疆者の無人化ソリューションはこうした側面でも重要な価値を持ってくる。

隋CEOは米スタンフォード大学出身で、米EVメーカーのテスラやアップルの中核部門で就業した経験を持つシリアルアントレプレナー(連続起業家)。殷CTOは復旦大学出身で、グーグル本社で多くの中核プロダクトの開発に携わってきた。

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中国語原文はこちら(https://36kr.com/p/5274633)

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