科学との距離、縮めよう 永田和宏さん
歌人・細胞生物学者 未来像

関西タイムライン
2020/1/15 2:01
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ながた・かずひろ 1947年滋賀県生まれ、京都大学理学部物理学科卒。京大名誉教授、京都産業大学タンパク質動態研究所所長。歌人としての著書に「近代秀歌」「現代秀歌」、共著「京都うた紀行」のほか科学者として「生命の内と外」など。

ながた・かずひろ 1947年滋賀県生まれ、京都大学理学部物理学科卒。京大名誉教授、京都産業大学タンパク質動態研究所所長。歌人としての著書に「近代秀歌」「現代秀歌」、共著「京都うた紀行」のほか科学者として「生命の内と外」など。

■正月恒例の宮中歌会始が16日に開かれる。2020年のお題は「望」。歌人で細胞生物学者の永田和宏さん(72)は、04年から詠進歌選者を務める。

年号が令和になって初の歌会始。例年だと、歌会始のお題は1年前に決まっているが、昨年は天皇の代替わりがあったため、発表は5月に持ち越された。応募作は1万5324首。ここから選者5人が吟味を3回重ねて10首に絞り込む。よい歌はひと目でこちらに飛び込んでくる何かがある。「さぞ大変でしょう」と気遣ってくれる向きもあるが、私は新聞2紙で歌壇の選者を務めていることもあり、大きな負担には感じない。

歌会始の選者では今や私が最古参になった。古株だからなのか、昨年は歌人として得がたい経験をした。天皇が即位した年にだけ行う大嘗祭(だいじょうさい)に、作歌を求められたのだ。日本を東の悠紀(ゆき)、西の主基(すき)に分け、それぞれにちなんだ歌を詠む。私は主基向けの10首を担当。うち4首は万葉仮名で記し、屏風を飾った。

■代表歌「たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏(くら)き器を近江と言へり」で知られる妻の河野裕子さん(1946~2010年)も著名な歌人。09年、10年に夫婦そろって歌会始の選者を務めた。

夫婦そろっての選者は異例だった。ただすでに進行していたがんのため、夫婦での選者は2年限りで終わった。妻の闘病10年は著書『歌に私は泣くだらう』につづった。先立たれてはや10年。歌詠みとして喪失感は大きく、余生は付録のようなものかもしれない。没後10年の節目もあり、今年は妻との出会いからの10年を振り返って、回想録を雑誌に執筆・連載する。

京都産業大で学生を指導する永田さん

京都産業大で学生を指導する永田さん

■瑞宝中綬章を昨年秋に受章した。

歌会始の選者としての功績か、それとも細胞生物学者としてか、どちらだろう(笑い)。ただ、17年にはタンパク質研究の国際組織からハンス・ノイラート科学賞をいただいた。これは日本人で初受賞というから、歌も研究のどちらも、おざなりでないのはご理解いただけるのでは。

サイエンスの先端領域は日進月歩。潮流を見失わないよう内外の研究論文、主に英文資料に絶えず目配りしつつ実験に没頭する。私自身、29歳で妻子がありながら会社員を辞め、大学院に戻ったころは日々研究に追われしんどかった。歌を捨てずにここまで来れたのを不思議に思う人もいる。自分としてはロジックと感情とがうまく釣り合いを取っているのだが。

■映画監督の是枝裕和さんや将棋棋士の羽生善治さんなど、交友関係の広さも永田さんの持ち味。

京都産業大学創立50周年にちなみ、2年がかりで対談を開いた。山中伸弥、大隅良典といったノーベル賞受賞者や、山極寿一京大総長といった面々はいわば研究仲間だが、演出家の平田オリザさんや漫画家の池田理代子さんらは、ご縁があって。歌をやっている余録だろうか。

■4月には大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館の館長に就任する予定だ。

JT生命誌研究館は日本たばこ産業の社会貢献の一翼を担う施設だ。研究のほか、普及啓発にも力を入れてきた。関西にこの施設がある意義は大きい。歴代館長の岡田節人さん、中村桂子さんも一流の研究者というだけでなく、科学をわかりやすく説き明かすことに長じた人たちだ。

日本ではともすればサイエンスが身近ではない。何の役に立つかわからない限り、科学は多くの人にとって「他人事」どまりだ。これを我がことの土俵に引きずり込めたらしめたもの。普通の人と科学との距離を縮めるよう、館長として知恵を絞りたい。

(聞き手は編集委員 岡松卓也)

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