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箱根にかけた思いの尊さ 挫折経験、人生輝かせる

創設から1世紀がたった2020年の箱根駅伝は青山学院大学の圧倒的な大会新記録で幕を閉じた。往路の4区で首位に立つと、結局その後は一度も首位を譲ることなく驚異的なタイムで2年ぶり5度目の総合優勝を飾った。

近年の青山学院は大学長距離界を間違いなくリードしてきた。ただ今回は絶対的なエースと呼ぶべき存在がおらず、箱根駅伝前に開催された全日本大学駅伝でも青山らしさを出すことなく東海大学の後塵を拝し不安視された。そんな低い前評判をみごとに覆す完勝だった。

勝負には敗れたものの心を引かれたのは準優勝の東海大学の選手たちの頑張り。往路が終わった時点での首位青山学院との3分22秒差は、実力が均衡した近年の箱根駅伝では逆転は絶望的といえるだろう。それでも重圧の中で復路の選手たちは、山下りの6区で区間新をマークするなど最後まで諦めず勝つことを切望していた。

彼らの姿に自然と以前の自分の姿を重ね合わせて見ているうちに胸が熱くなった。

2位のフランス選手と健闘をたたえ合う(09年のUTMB)=藤巻 翔撮影

09年のトレイルランの世界最高峰のレース「UTMB」の最終盤、フランス選手と2位争いをしていた。年齢的にこんなチャンスは二度とないと思われ、何とか一つでも順位を上げようと全力でその選手を追っていた。一時は5分差まで迫ったが、その後はなかなか差が詰まらない。あまりの精神的なつらさから逃げ出したくなり、「3位でも十分快挙だ」と弱気になってしまった。

そこから差は最終的に16分にまで広がり、そのまま3位。あれから10年以上がたち、多くの人々にこの成績を評価していただく。ただ、自分としては、一世一代の大勝負の舞台でなぜ最後まで強気を貫けなかったのか、と後悔が先に立つ。たとえ強気でも結果は同じだったとは思うけれど、いまだに気まずい思いが拭えない。

ところで今回の箱根は気象条件にも恵まれて記録ラッシュとなり、総合記録だけでなく区間新記録も6区間で誕生するなどまれに見る大会だった。昨年末の全国高校駅伝、元日の全日本実業団駅伝でも好記録が続出したことから、多くの選手が履いたシューズが話題をさらっている。それでも記録ラッシュを生んだ大きな要因は、各チームが取り組む新しいトレーニングの効果はもちろん、そして何よりも東海大の選手にみられたようなレースにかける意識の高さではないだろうか。

年々世界レベルから大きく離され、沈滞ムードが漂っていた国内の陸上長距離界。東京五輪に向けその選考となるMGC、マラソン日本記録への報奨金制度が整い、そこに箱根駅伝で活躍した設楽悠太、大迫傑両選手のマラソンの日本記録樹立で全体が活気づき、学生にもそうした熱は間違いなく伝わっている。

一方、青春をかけて4年間全力で取り組んでも出場がかなわず卒業することになる圧倒的多数の学生へ。私自身、その一人であり、卒業後も人生の負い目と感じていた時期があった。しかし、たとえ成し遂げることができずとも、青春のある時期を一つのことに専念し、挫折した経験は尊いもの。きっと今後の人生を輝かしいものにしてくれるし、またそうなってほしいと願っている。

(プロトレイルランナー)

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