ゴーン元会長、審判なき「無罪」主張 疑問は消えず

2020/1/9 20:30
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日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)は8日にレバノンで開いた記者会見で「事件は想像の産物」などと主張して無実を訴えた。元会長はメディアを前に熱弁を振るい続け、会見は2時間を超えた。だが、不正行為を巡る疑問を解消する内容とはならず、証拠に基づいた審判の見通しは立っていない。元会長の会見での発言を検証した。

「副社長や担当者が署名している。私のサインだけでは1ドルたりとも動かせない」。ゴーン元会長は日産社内の決裁書類とみられる文書をスクリーンに映し出し、会見場に集まった記者たちを見回した。日産子会社からサウジアラビアの知人側への1470万ドルの支出について、あくまでも正当な業務の対価だったと訴えた。

だが東京地検特捜部は、元会長が社内で強い権力を持っていた状況を踏まえ、外形的な手続きが適正でも実態は知人に対する私的な謝礼だったとみている。「一部の証拠のみを使って無罪主張するのは意味が無い」と検察幹部は切り捨てる。

元会長が会見でスクリーンに映した複数の資料は、公判前整理手続きの中で検察側が弁護側に開示した証拠を持ち出したものだった可能性がある。刑事訴訟法には公判前に証拠を公表することを制限する規定があり、司法関係者は「検察側が、元会長の説明を覆すために法廷以外で証拠を公開するのは難しい」としている。

日産は極秘の社内調査を経て、ゴーン元会長に関する不正疑惑の情報を東京地検に持ち込み、捜査に全面協力していた。その背景には仏ルノーとの統合問題を巡る一部経営陣の不満があり「ルノーの日産への影響力を取り除くために私を追放した」というのが元会長の描くストーリーだ。

ルノーは日産に約43%出資し、日産とフランス政府はともにルノー株を15%保有しているが、14年に制定された同国の法律により仏政府はルノーに対し実質的に出資比率30%に近い影響力を持つ。元会長は「仏政府の影響力が大きくなったことで、日産や日本政府との間に苦々しさが残った」との見解を示した。

元会長はこうした経緯を「クーデター」などと非難しており、関与した人物として西川広人前社長兼最高経営責任者(CEO)らの実名を挙げた。名指しされた西川前社長は9日朝、「クーデターの話は何を根拠に言っているのか」とし、ルノーとの統合と元会長に対する追及について「全く次元が違う」と語った。

企業統治(ガバナンス)に詳しい遠藤元一弁護士は「日産内部でのクーデター的な側面があった可能性も否定はできない」としながらも「法令違反が強く疑われる行為の法的責任はそれとは別の問題であり、免責の理由にはならない」と指摘している。

「99.4%有罪になる」「最高裁まで5年もかかる」「妻と会う権利も奪われた」。レバノンへの逃亡の理由について、元会長は「日本では公正な裁判が受けられないと判断した」と述べ、自身の行為を正当化した。

元会長は「日本の司法は非人道的」と訴え、検察の不正行為をまとめたというリストも示した。取り調べは弁護士の立ち会いもなく1日8時間に及んだなどと非難した。

これに対し、東京地検は9日、元会長が勾留された約130日間のうち取り調べは約70日間で、1日平均4時間弱だったと説明。日曜を除くほぼ毎日、弁護人と2時間前後接見しており「法的な助言も受けられた」と反論した。

龍谷大の斎藤司教授(刑事訴訟法)は「刑事司法制度は各国の主権の下で法律が定められ、手続きが行われている。元会長の指摘には理解できる点もあるが、裁判を回避して海外に逃げるという行為は問題だ」と話す。

ゴーン元会長はレバノンでの安全について「(政府から)保障は受けていない」とする一方、同国に長期間滞在する考えを示して「レバノンの法律を信じている。(日本への)引き渡しを疑うことはない」と述べた。同国政府が身柄を日本に引き渡す可能性は低いとみられている。

9日の森雅子法相の記者会見で「日本には推定無罪の原則がないのではないか」といった質問が出るなど、海外メディアの中には元会長の主張に同情的な論調もある。捜査幹部は「国際世論を味方につけるため、自身に好意的なメディアに対して発信を続けるだろう」とみている。

元会長は「国際的な汚名をそそぎたい」などとし、日本以外での裁判を受けることも否定はしなかった。だが、刑事裁判を他国に依頼する代理処罰の手続きはハードルが高く、実現の可能性は低いとみられる。

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