メジューエワ、再びベートーベンのピアノ・ソナタ全曲
文化の風

2020/1/10 2:01
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イリーナ・メジューエワ 1975年ロシア(旧ソ連)生まれ。グネーシン音楽大学(現ロシア音楽アカデミー)でウラジーミル・トロップに師事。92年オランダのエドゥアルド・フリプセ国際コンクールで優勝。97年日本人との結婚を機に来日。歴史ある京都に憧れを抱き、2011年に拠点を移した。44歳。

イリーナ・メジューエワ 1975年ロシア(旧ソ連)生まれ。グネーシン音楽大学(現ロシア音楽アカデミー)でウラジーミル・トロップに師事。92年オランダのエドゥアルド・フリプセ国際コンクールで優勝。97年日本人との結婚を機に来日。歴史ある京都に憧れを抱き、2011年に拠点を移した。44歳。

2020年はベートーベンの生誕250年。彼が生涯を通じて創作し続けたのがピアノ・ソナタだ。ピアノの「新約聖書」とも称される重要な32曲の全曲演奏会に、ロシア出身で京都に暮らすイリーナ・メジューエワが挑む。楽聖の深大な世界を、持ち前の豊かな想像力で追究する。

ピアノ・ソナタはベートーベンの作品の中で交響曲や弦楽四重奏曲とともに重要な位置を占める。楽譜を全て合わせると約600ページ。ピアニストにとって「旧約聖書」とされるバッハの平均律クラヴィーア曲集と並び立つ聖典だ。「全曲を弾くことはピアニストにとって夢。山に登るようなもので、弾かないと見えない世界がある」。メジューエワは08年から09年にかけ、初めてその頂に挑んだ。

全曲を弾くことで気付いたのが、新しい音楽を常に創造し続けたベートーベンの革新性だ。ソナタ形式は提示部、展開部、再現部を持つクラシック音楽作品の形式。この形式が第1楽章に用いられることが多い。メジューエワは「この厳格な形式を守りつつ、人間的なパッション(情熱)や精神性の深さが150%表現されている。これはものすごい才能」と力説する。

ベートーベンの時代はピアノが進化し続け、表現できる音の強弱や音域が拡大。それに伴い曲も深化していった。また彼自身も名ピアニストだった。その意味では「楽器とともにあった作曲家」だという。一方で耳が聞こえなくなる状況で創作を続けた。「真に孤独で、楽器を超えた世界にもいた」と指摘する。特に後期三大ソナタのうち「第31番の第3楽章や第32番はこの世の音とは思えない」。

さらに「4つの声部の動きで音楽が作られ弦楽四重奏のようでもあり、スケールの大きさはオーケストラの発想だ」と舌を巻く。演奏には高い技術、精神力、体力が要求される。「ピアニストのことを考えてくれていない」と苦笑する。

全曲を弾くまで「ベートーベンは恐れ多く、距離感があった」と明かす。だが1度終えてみると「人間の器の大きさ、優しさ、おおらかさを感じ、ぐっと距離感が縮まった」。十余年を経ての再挑戦に「時間とともに距離は近くなっており、作曲家や楽器との対話もよりうまくできる気がする」と自信をのぞかせる。

「音の色が命」――。ロシアで学んだ音楽家は伝統的に、作品が持つイメージを大切にするという。「どんな音で弾きたいか、絵画や文学作品、詩などを入り口にして想像する」

日本で暮らすメジューエワの場合、大ファンだという歌舞伎が想像力の源泉に加わる。「同じ作品で、同じ動きをしても役者によって全然違って見える。ピアニストも弾く人によって作品が全く違うものに聞こえる」と共通点を見いだす。ひいきの役者は中村吉右衛門。「役の人物が見えてきて、感動で席から立てないこともある。そんな演奏をしたい」と意欲を燃やす。

公演はびわ湖ホール(大津市)で、4月、6月、9月、11月に計8回開催する。各回とも第8番「悲愴(ひそう)」、第23番「熱情」などの名曲をちりばめつつ、初期から後期の作品をバランス良く配置。最終回は後期三大ソナタを一気に弾く。「ベートーベンの様々な側面を味わってもらいたい」

びわ湖で使うのは、1922年に製作されたニューヨーク・スタインウェイの楽器。「甘い、厳しい、太い、丸い、深い……。様々な感覚がある生き物のような楽器」。多様な顔を持つベートーベンにはうってつけだ。公演は東京文化会館(東京・台東)でも開く。

(西原幹喜)

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