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3兆円の大台回復への試金石 正念場の2020年

2020/1/11 3:00
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昨年の中央競馬は、前年比3.1%増の2兆8817億8866万1700円の売り上げを記録した。前年比プラスは8年連続で、3%台の伸び率は16年以来となる。初めて4兆円に達した1997年をピークに、落ち続けていた売り上げが増加に転じたのは2012年。この年は東日本大震災の直撃を受けた前年の反動による伸びだった。11年の「底」の時点では約2兆2935億円と、ピーク時の約57%まで落ちていたが、6年で約5882億円戻したことになる。昨年の数字はディープインパクトが3歳三冠を達成した05年の水準に迫り、03年以来の3兆円の大台も近づいてきた。ただ、消費税が10%に引き上げられた昨年10月以降は失速の気配も見えており、今年は試金石の年となりそうだ。

活況の中央競馬は2019年も前年比3.1%増の売り上げを記録した=共同

活況の中央競馬は2019年も前年比3.1%増の売り上げを記録した=共同

■緊縮から一転「右肩上がり」

売り上げ増が8年も続くとは、当事者の日本中央競馬会(JRA)の人々にも予想外だったかもしれない。震災翌年の12年(前年比4.4%増)は実力と言い難く、実際に震災前年の水準に届いていなかった。13年(同0.4%)は特殊要因抜きの増加だが、実態は横ばいに近く、「回復」を実感したのは、前年比3.7%増を記録した14年だろう。ここから3%を超える伸びが16年まで続き、17年は2.9%増。18年に1.7%と鈍ったが、昨年は再び伸び率が3%を超えた。JRAほどの巨大ビジネスとなれば、前年比3%の売り上げ増は至難の業。ピーク時の水準には遠く及ばないが、デフレからの脱却がままならない近年の国内経済と比べれば、相当な成果である。

今年で3兆円の大台を回復するには、4.1%の伸びが必要。12年以降の売り上げ増加局面でも、4%台の伸びは一度もなく、年内の到達は現実味が薄い。ただ、2%を少し超える程度の伸びが21年まで続けば、3兆円に届く。売り上げ低下が続いていた時期には、JRAも全面的な経費削減を進めており、「2兆円でも持続可能な経営体質」が内部的な目標だった。10年までは手持ちの国債売却などで赤字決算を何とか回避する状況が続き、震災のあった11年には約63億4421万円の赤字を計上した。それ以前の赤字は創立間もない55、57年の2回だけで、当時がいかに深刻な状況だったかがわかる。12年以降、売り上げ回復とともに、JRAの予算編成にも余裕が出てきたが、内部では「若手職員ほど緊縮の時期しか知らないため、予算を増やすというイメージ自体が乏しかった」との声も漏れたほど。想定外の回復だったのだ。

■ネット投票で拡大 地方、海外分も

昨年の業績を細かく見ると、ネット投票の力が絶大だったことがわかる。ネット経由の売り上げは2兆441億8162万2900円で、前年比5.9%増。売り上げに占めるシェアは70.9%で、2兆円突破もシェア70%超えも史上初めて。近年の経済指標がさえない理由として、ネットショッピングの実態が十分に反映されていないことが挙げられるが、競馬をはじめとした公営競技では可視化されている。競馬場に来場しても、馬券購入はスマホ経由という人も多い。昨年末現在、JRAのネット投票会員数は445万4537人で前年比6%増。会員数の伸びが、ほぼ売り上げに直結している形で、今や命綱といえる。

ネット投票で買われるのは、JRAの馬券だけではない。現在は地方競馬の主要レースに加えて、日本馬が参戦した海外のG1も発売されている。12年秋に始まった地方発売は年ごとに売り上げが伸び、昨年は1019億3188万4700円と、1000億円の大台を超えた。16年秋の凱旋門賞から始まった海外発売も、昨年は7つの国・地域の21競走を発売し、売上総額は177億7362万1400円。地方発売開始前は、「顧客の財布は1つ。肝心のJRAの売り上げが食われる」との懸念も少なくなかった。だが、結果は正反対で、苦境にあった地方を救うばかりか、競馬を楽しむための必須のプラットフォームとして定着した。特に、土日でも入出金が可能で、平日の地方や海外競走も購入できる「即PAT」の会員数が、ゆうちょ銀行などで口座を設置できるようになったこともあって急伸。19年は295万2613人と、全体の66.2%を占めた。会員数自体も09年末現在の308万1357人から約45%増えた。

■アーモンドアイ人気や日程の妙

レースや馬の側面で業績を振り返ると、昨年の平地G1競走24戦で、売り上げが前年を上回ったのは15競走。総額は4263億2485万4400円で前年比1.7%増。全体の伸び幅より小さかった。前年比5%以上の伸びを記録したのは8競走で、3戦はアーモンドアイが出走していた。安田記念は8.3%増で12年ぶりに200億円を突破。天皇賞・秋は17.6%増で、前年を上回った15競走の中でも伸び率は最高で、10年ぶりに200億円を超えた。香港カップを回避し、急きょ参戦した有馬記念も7.4%増。約468億8971万円は06年以降の14回で最高。雨模様だった有馬記念以外は入場者も大きく伸び、人気を示した。2月のフェブラリーステークスは、藤田菜七子騎手(22)がコパノキッキングでG1初騎乗を果たし5着。入場者は21.8%、売り上げも17.2%と前年を大きく上回った。

藤田菜七子がG1初騎乗したレースでは入場者、売り上げとも前年を大きく上回った(写真は12月のカペラステークス優勝時)=共同

藤田菜七子がG1初騎乗したレースでは入場者、売り上げとも前年を大きく上回った(写真は12月のカペラステークス優勝時)=共同

もう一つ、見逃せないのが日程の効果。最終開催日の12月28日に中山で行われた2歳G1、ホープフルステークスは、前年比15.3%増の約142億7816万円で、G1昇格以来3回目で初めて、同じ2歳G1の朝日杯フューチュリティステークスを上回った。17、18年は押し詰まった時期とは言え平日の開催だったが、今回は前日が実質的な仕事納めで、28日が土曜と重なったのが効いた。入場者数も4万2062人で、日曜施行のスプリンターズステークスより多かった。昨年の日程は年始の1月5、6日も土日と重なり、売り上げを伸ばしやすい配置となっていた。今年は逆に、1月5日が日曜で売り上げも好調だったが、月曜の6日は重賞が組まれなかったこともあって、中山、京都の合計は前年を約121億円下回った。

■消費増税の影響、失速の気配も

織り込み済みとはいえ、"借金"を抱えてスタートした20年は、ほかにも不安な材料がある。昨年10月から、売り上げの増勢に陰りの見えた場面があったからだ。昨年10月と言えば消費税が10%に引き上げられた時期で、12、13日には台風19号も日本列島を直撃した。13日に行われた秋華賞は、東京競馬の中止や東日本・東海の場外施設の営業取りやめも影響して、売り上げが前年比21.4%減。翌週20日の菊花賞も、低調なメンバー構成も重なり11.7%減。10月21日の代替開催が予想外に売り上げが伸びた点や、天皇賞当日の好調さでどうにか巻き返し、前年10月をわずかに上回る水準で持ちこたえた。だが、11月は3つのG1が軒並み前年割れとなった。特に好調馬が不在で、雨の影響も受けたジャパンカップは前年比9.7%減。1-4週の売り上げは前年比5.2%減。ここには、18年に地方の主要イベントであるJBC(ジャパン・ブリーディングファームズカップ)を京都で開催し、売り上げが増えた反動も出ていたが、月単位でこれほど大きく落ち込んだことは、近年になかった現象だ。

昨年9月末の段階で、全体の売り上げは前年比3.9%増だったが、11月24日の時点では2.9%まで伸び率が縮小していた。不安視された12月は、5つのG1の売り上げが全て前年を上回り、一応は懸念を払拭した格好だ。ただ、特定のスターホースの参戦や日程の巡り合わせの良さに救われた部分は否定できず、今年は正念場だ。

■好調続く地方 五輪の影響は

一方で明るい材料もある。地方競馬の好調ぶりだ。東京・大井で12月29日行われたG1、東京大賞典の売り上げが56億627万5800円を記録し前年比21%増。重勝式を除いた当日の売り上げも92億2902万4200円(前年比16.9%増)となり、いずれも史上最高となった。やはり日曜と重なったのが大きかったが、競輪界の年末の大イベント、KEIRINグランプリ(昨年は12月30日に東京・立川で施行)を、単体、当日合計の双方で上回った。昨年度上半期(4-9月)の売上総額も地方競馬が約3407億円で、約3330億円だった競輪を上回っており、年度でも史上初めて地方競馬が競輪を上回る可能性が高い。

大井競馬場で行われた東京大賞典は史上最高の売り上げを記録した=共同

大井競馬場で行われた東京大賞典は史上最高の売り上げを記録した=共同

全体的には、今年は夏に東京五輪を控え、春先以降は世間の関心も五輪に集中しそうだ。その分、メディアへの露出の機会も食われる。上半期の主要競走当日に、五輪関係のニュースがスポーツ紙などで大きく扱われた場合、業績にも影響が出るだろう。また、西日本で最も集客力の高い京都が、10-11月の開催を最後に、工事休催に入る。こうした事情を考えると、今年が12年から8年続いた売り上げ増加局面の転換点になる可能性もある。

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