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鉄人の娘・室伏由佳さん、我流で投てき続けた理由
陸上投てき 室伏由佳(2)

Tokyo2020
(1/2ページ)
2020/1/15 5:30
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室伏由佳は「一家3人で写真を撮られないようにしていた」(2019年12月、都内のホテルで)

室伏由佳は「一家3人で写真を撮られないようにしていた」(2019年12月、都内のホテルで)

投てき種目を選んで中京大学に進学した室伏由佳(42)は、ハンマー投げのレジェンドである父、重信(74)、兄、広治(45)と、名だたるアスリート一家の一員として望まない注目を浴びる日々に苦しんだ。実力も経験も十分でなかったために、同じ大学で指導する父が隣にいるというのに、アドバイスをいっさい受けず、それどころか反発した。周囲がうらやむ環境とは裏腹に、「鉄人の娘」、「広治の妹」と属性で語られる苦悩にもがいた若き姿をつづる。(前回は「室伏由佳さん、投てき『鉄人一家』に生まれた苦悩」

◇   ◇   ◇

1995年、室伏由佳は中京大に進学した直後の6月、専門の女子円盤投げと、当時世界選手権や五輪に向かって正式種目に加わると見込まれていた女子ハンマー投げで日本選手権に出場した。前年、17歳で出場した円盤投げは10位から7位に順位を上げ、手応えを感じた。ところが初めて出場したハンマー投げでいきなり3位と日本最高峰の大会で表彰台に上がってしまった。

本来ならば「しまった」などと表現すべき結果ではなく、さすがサラブレッドと呼ぶべきである。しかし由佳にとって、チャンレジ感覚で投げたハンマーで味わったある種の違和感が、「闘い」の始まりを告げる合図となってしまったのである。

この時、兄・広治もまた、日本選手権初優勝を果たして、大きな注目を浴びる。「鉄人」の後を継ぐ息子がついに日本選手権を初めて制し、ハンマー投げの親子鷹(だか)が五輪を狙うとなれば十分な話題性がある。ましてそこに妹が加わるのだ。完璧な鉄人ファミリーとその親子のドラマを、メディアが放っておくはずもなかった。

■「私は私なのに……」

新聞のスクラップで、大学時代の苦しい気持ちを思い出す

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「翌日から全ての記事には、鉄人の娘、新鉄人の妹、と私の名前の前には必ず何か看板が、それも私は少しも望んでいない属性がまず書かれている。私は私なのに……それが嫌でした。ですからこう決めたんです。もう二度とハンマー投げはやらないって。報道の写真にも絶対に3人で撮影されないように、って、いつもカメラの位置を確認していたんです」

由佳は当時をそう振り返って、こっそり隠れるしぐさをしながら笑う。実際に、一家3人が競技場でそろってフレームに収まっている写真も、優勝などで記念撮影に応じているようなカットも見つからない。大学1年、由佳は種目を円盤に絞り、ハンマーからは早くも「引退」してしまった。

愛知県豊田市立保見中3年時には、100メートルと走り高跳び、砲丸投げと「走る」、「跳ぶ」、「投げる」を組み合わせた「3種競技」で、全国中学陸上5位に入賞。抜群の陸上センスは周囲に知れ渡っていた。市邨学園高校に進学してからは、円盤投げで少しずつ実力を付けていく。

中京大に進み、父・重信が同大学の投てきブロックの指導者として毎日グラウンドに立っているというのに、助言は求めなかった。メディアが「属性」で由佳を語ろうとする現象と、競技で指導者としての父からアドバイスを受けるかどうかは本来、別の話だったのだが、18歳にそんな器用な選択などできなかったに違いない。意地もある。加えて、父と兄の存在に対する周囲のやっかみにも似た感情も、「絶対にハンマーはやらない。私は私のやり方を貫く」とした思いを、さらにかたくなにした。

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