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中国アパレル改革、生地を高精度に再現

衣服に使われる生地の開発費を削減し、生産過程を効率化させるため、中国のスタートアップ「心●(口へんに冬)科技網絡(HeartDub)」が、生産前の生地をバーチャルで表現する製品を開発した。AIを活用した物理演算エンジンにより、こうした技術を実現したという。

2018年に設立された同社の中核技術は、実際の生地の素材データを取得し、AIを搭載した物理演算エンジンで生産をデジタル化するものだ。生地のできあがりを高精度に再現できるため、アパレル業界における流通過程をデジタル化し、生地の開発・素材選び・サンプル作成などをバーチャル化、オンライン化していくことが目標だ。

衣服のデザインに使うシステム(ハートダブ提供)

現在、同社のプラットフォームは生地データベース、デザインイメージ画像、着用時のシミュレーション画像で構成されている。生地データベースにはさまざまな素材、柄、色が登録されており、これらを自由に組み合わせてデザイン画を作成し、完成品サンプルの作成までを行ってバーチャルモデルに着せることができる。バーチャルモデルには多様な動作が設定されており、さまざまな動きにつれて変化する生地の重量感や表情・動きを確認できる。

CTOの李若毫氏によると、バーチャルで生地を作成するには、まず実際の生地の物理構造を分析し、取得したデータ指標を物理演算エンジンに入力する。同社が設けたラボでは、一般的な素材の指標体系がすでに構築されている。バーチャル生地が持つ物理的指標はそれぞれ実際の生地のものと対応しており、テクスチャーや重み、着用時の動きなどを高精度に再現できる。

同社の主な取引先は生地メーカーとファッションブランドだ。生地メーカーは開発した生地をソフトウエアにアップロードし、ファッションブランドはその質感や柄、デザインとの組み合わせをオンラインで調整し、バーチャルモデルによる着用後のイメージを確認した上で生地の仕入れを決定する。

同じデザインで異なる素材を使用した場合の対比シミュレーション(同)

デジタル化されたプレゼンテーションプラットフォームを構築したことにより、生地の開発からデザインまでのコストを大幅に削減できるようになる。既存の流れでは、生地メーカーがまず素材を開発し、生地見本を作成して見本市などに出品するか、各社に送付してできあがりを見てもらう。ファッションブランド各社はこれらを見て使用する生地を決め、メーカーから生地を仕入れて完成品サンプルを作成する。その後完成品のサンプルをもとに実施する受注会で最終的な受注量が決定する。どの生地をどれだけ仕入れるのかがここでようやく決まるのだ。

中国のテキスタイルメーカー「天一紡績(Tianyi Textile)」の魯建平氏によると、生地メーカーは毎年50~100の新製品を発表し、一つの製品につき500メートルのサンプルを作成するため、新製品開発に毎年500万元(約7800万円)ほどを割いているという。しかし、実際の受注につながる製品は2割ほどにすぎない。また、完成品サンプルまで作製した衣料品のうち、実際に市場に並ぶのも2割ほどだという。

心●(口へんに冬)の李CTOによると、同社のデジタル化プラットフォームを利用すれば、生地メーカーは受注前のプレゼンテーション段階までをコストゼロで完結できる。製品開発費全体では50%ほどを削減できる計算だ。発注するファッションブランド側も、プラットフォーム上で直接着用イメージを確認できるため、サンプル製作の必要が減り、その製作費を70%カットできる。またサンプルの納期も90%早まる。

デザインに関しては、現段階ではベーシックなものを中心にそろえている。将来的にはファッションデザインソフトと連携し、あらゆるデザインに対応していく予定だ。

同社は、十分なデータを蓄積し技術も向上した段階で、ファッションブランドに商品デザインを提供してもらい、消費者がプラットフォーム上でバーチャルモデルに試着させ、ブランドと消費者が直接取引できる体制を整えたいとも考えている。さらに生地の開発段階から消費者と交流を図り、デザインに反映させて効率を高め、試作にかかるコストをさらに圧縮していくという。

将来的には企業の新商品発表の場としてバーチャルファッションショーも開催できる。こうした試みは、アパレル産業を持続的に成長できるデジタル産業に転換させる一助となるだろう。李CTOは将来的に自社ブランドを立ち上げる構想も明らかにした。

同社は現在、主に企業向けのサービスを展開している。利用料の支払いは定額制と従量制の二種類がある。前者は年単位で徴収し、後者は実際の利用状況に応じて徴収する。現在は年間販売額10億元(約160億円)規模の生地メーカー数社と取引に向けて交渉中だ。

心●(口へんに冬)の技術チームは2013年にシアトルで立ち上げられた。メンバーはいずれも米マサチューセッツ工科大学の出身で、OS(基本ソフトウェア)、半導体チップ、臨床医学など多岐にわたる分野を手がけてきている。

同社の技術は既存のアパレル業界を変革するだけでなく、映像やゲーム、エンターテインメントなどの衣装関係にも応用できると考えている。現在プレシリーズAでの資金調達を目指して調整中だという。

「36Kr ジャパン」のサイトはこちら(https://36kr.jp/)

中国語原文はこちら(https://36kr.com/p/5270993)

 日本経済新聞社は、中国をはじめアジアの新興企業の情報に強みをもつスタートアップ情報サイト「36Kr」を運営する36Krホールディングスに出資しています。同社の発行するスタートアップやテクノロジーに関する日本語の記事を、日経電子版に週2回掲載します。

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